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西院 茜燦 いい加減覚えてくれ……ゼンザじゃなくてセンザ、だ 基本情報 名前 西院 茜燦(さい せんざ) 学年・クラス 2年 性別 ♂ 年齢 17 身長 175cm 体重 60kg程 性格 根はマジメ。気苦労が絶えないせいか面倒事は自分一人でやりたがる 生い立ち 大昔は退魔士だった家系の、極普通のサラリーマンの息子極普通の生活をして一般生徒として双葉学園に入学したが今や相棒となった剣を手にしたことで異能の世界へ足を踏み入れることになる 基本口調・人称 俺、あんたorあなた、~さん 程々に丁寧口調 特記事項 超ノーコンなのに球技大好き キャラデータ情報 総合ポイント 22 レベル 7 物理攻防(近) 6 物理攻防(遠) 1 精神攻防 2 体力 5 学力 3 魅力 2 運 2 能力 コードネーム『獅子の魂、勇猛なるかな(ライオンハート)』 特記事項 実家古来に伝わる秘剣、四宝剣を持つ 能力 コードネーム『獅子の魂、勇猛なるかな(ライオンハート)』 防衛戦の矢面に立つ際に発現する、自動発動式の超人系能力。状況と戦う意志に呼応して身体能力を高めるが、器の限界が振り切れると内部から反動を受ける その他詳細な設定 四宝剣は、百虎(風)・花雀(火炎)・繚龍(氷結)・乱武(残突特化)の4振りの刀と特殊な形状の鞘からなる呪術剣。 鞘が持ち主から漏れ出た力を回収し、その力を刀身に充填することで抜き放ったときに力を発現させる。 各々の刀に特性発現時間には時間制限があり、再び力を取り戻すには鞘に収めて再充填を行わなければならない。 また、4本分まとめて収納できる鞘には、呪術と伝統工芸的細工がしてあり、一本を抜いた時点で他三本を抜くことが出来なくなり、物理的破壊などを以って強引に二本以上抜こうものなら、呪術により鞘も刀も力を失ってしまう。 同時に、鞘の特性から一本でも刀を失えば他の三本も使えなくなるという厳しい制限がかけられている。 また、パラス・グラウクスという専用の戦闘用二輪車両を所有している。 これとは別に一般的な普通二輪車も所持しており、免許も取得している。 登場作品 登場作品のリンクを貼ってください。後から追加もしていってください 作者のコメント PC質問大会(別名人身御供) 簡単に自己紹介をお願いします 2Dの西院茜燦です。 ゼンザじゃなくてセンザです。ゼンマイでもセンザイでもゼンザイでもなくセンザです。 異能について教えてください 異能の判定をしてもらった担当の人は『獅子の魂、勇猛なるかな《ライオンハート》』って名づけてました。 危機的状況、背後に守るべき人が居る状況であると身体能力を向上させるという異能で、自分で制御はできません。 あまりに絶望的すぎると限界以上に増幅されて逆に自滅する恐れもあるので、そうなる前に撤退する必要がありますが。 特技があったら教えてください 小さいころから祖父に鍛えてもらった、剣道剣術ならそこそこ。 とは言え、逢洲さんに戒堂や宮城といった、自分と互角以上の使い手が何人も居るので、引続き精進が必要ではありますが。 あとは、そうだなぁ、う~ん、球技は好きですよ。 ……何です、その「ええぇ……」って顔は? 趣味や日課があれば教えてください 趣味は、上京の足としても使った単車で学園都市外周とかを走るくらいかな? 日課は家事全般、ですかね。 家族ぐるみの付き合いがあった中等部のメイと一緒に住んでますが、メイは家事の類はほとんど出来ないので。 家を空けるときのために、そろそろ簡単なところから教えていかなきゃとは思ってるんですがね。 自慢話があればご自由にどうぞ 別に、自慢というようなことは何もないんじゃないかと。 強いて挙げれば、アメリカの「スクール」SF分校とイギリスの「ガーデン」の両方に行ったことがある、くらいかな? ……どっちも滞在1日未満だったけど。 朝の挨拶は何ですか? 目上・敬意を払う相手:おはようございます クラスメイトなど付き合いのある相手:おはよう 付き合いの深い男友達;うっす ※状況により多少の変動あり 好物(食べ物)を教えてください 何でも食べますよ。父も祖父も食に厳しい人だったんで。 「うまけりゃ何でもいい」って感じです。 好きなおかずは最初に食べる?最後まで取っておく? 出されたものを均等に食べていくようにしてるので、別段最初や最後に偏ることはないですね。 体で最初に洗う箇所を教えてください ……こんなこと知って嬉しい奴が居るのか? 別にどこからってのはないけど。気が付いたところから、かな。 犬派か猫派どっち? 実家にゃ犬も猫もいるので、どっちかってのはないですね。 飼うのなら、これ以上手間が増えないのがいいなぁ……。 家で落ち着く場所は? 一人静かにゆっくりできる自室、ですかね。 ストレス解消によくすることは? 竹刀や得物を揮って体を動かしたり、単車で走ったりしてますね。 一意専心ってのができてくると、嫌なこととか面倒なこととか、そういうのがきれいさっぱり消えてくれるんですよ。 お友達か知り合いを3人ほど教えてください 田舎からの知り合いに、大学部の有賀先輩と、さっきも話したメイ。 1年の鵡亥姉妹とはパラスの面倒見てもらってるのもあるんで良く話しますね。メイとも気が合うようで、遊び相手をしてもらうこともあります。 演習チームを組んでた頃からの付き合いで、B組の舞華さんと話をする機会もあります。 剣道剣術関係で、宮城や戒堂と知り合えたのは、自分にとって大きな収穫だと思ってます。 天地については……普段のアレがなけりゃ、いいヤツなんだけどなぁ、とは思いますね。 学園で何か頑張っていることはありますか? 田舎に帰って「何しに東京に行ったんだこの馬鹿者が!」って怒られないように、文武両道を心掛けてます。 双葉学園って、どういうところがスゴイと思いますか? 良くも悪くも、「何でもアリ」なところかな。 逆に、この学園に足りないものって何だと思いますか? 人の名前を、ちゃんと覚えてくれる人が、もっと多いといいなぁ……(遠い目)。 学園生活での一番の思い出を教えてください あんまりいい思い出がないような気がするなぁ……このままで良いのだろうか? テスト勉強は真面目にやりますか? (それとも一夜漬けか?ヤマは張るか?) そりゃまぁ、真面目にやりますよ。ヤマ張ったって外れりゃ徒労、一夜漬けして寝ぼけて試験受けたって良くはならないですからね。 理数系は鵡亥姉妹、英語はメイのおかげで大分助かってるってのはありますけどね。 異性のタイプが知りたいです そういうことを論じられる立場ではないのでノーコメントで。 学校内に好きな人がいたら教えてください! いません。 河でおぼれそうになってる人が二人居ますが助けられそうなのはどちらか一人だけ。どうしましょう? 凍気の霊剣、繚龍で河を凍らせて、一人は溺れないように確保してからもう一人を救助します。 目の前にラルヴァがいます! どうしますか? まずは警戒、敵対行動を取るようなら迎え撃ちます。 あなたはラルヴァを殺して平気ですか? 話し合う余地がある限りは話し合いたいところですが、価値観やメンタリティが人間のそれとはかけ離れていてどちらか一方の絶命を以てしか終わらない場合や、そもそも捕食のためにしか襲ってこないような場合は止む無しです。 初体験はいつ? 初めてラルヴァに遭遇したのは高1の夏休み。 何も出来ずに逃げるしかなかった自分が、今でも悔しいです。 何か言っておきたいことがあれば自由にぶっちゃけてください センザです。 球技に混ぜてください。「隅の方に立っててくれたらいいよ」とか「ひとまずベンチで」とか言わんといて下さい……。 お疲れ様でした。今日帰ったら何をしたい? 腹を空かせて待ってるメイに晩飯作ってやります。
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【遠野彼方は普通である】 その4 「激闘! セイバーギア! 」編 遠野彼方をひとことで言い表すならば「普通」であろう。 容姿をはじめ勉強もスポーツも平均よりややまし、ましてや異能も持たない彼はごく普通の「どこにでもいる学生」に過ぎない。 ラルヴァとの死闘や世界の有り様について考えることもない。そのような者が日々気にかける事といえば、返却される小テストの結果や、好きな女の子のこと、または友人関係についてであろう。 彼方も例に漏れずに新しい友人について考えていた。 その友人の名は、天堂 遙(てんどう・はるか)という。 ちょっとしたきっかけでできた友達。商店街で背後に鎧武者を立たせて泣きそうになっていた子供。 初等部の彼は、とある地方から独り双葉へとやって来ており、周囲に馴染むことがうまく出来ていなかった。 そんな遙もとある事件を経て、物怖じすることなく積極的に周りと関わっていこうとひとまわり成長し、彼方としても安心していたところなのだが…… 「さて、どうしたものかな」 初等部とはいえその人間関係は複雑だ。むしろ他人との距離感でいえば中等部、高等部よりもずっと濃密であろう。ちょっとしたきっかけで生涯の友が出来ることもあれば蛇蝎のごとく嫌われることもある。 クラスにようやく馴染んできたと思えるようになった遙だが、ある時気がついたという。 ──僕は、男子のなかで浮いている!? さもありなん。天堂 遙、その容姿は少女と見紛うほどの美少年である。 身体強化系の異能者には敵わないが、幼少時からの鍛錬によって身体能力は高く体育の授業では活躍を見せる。そのかわり勉強の方はいまひとつだが、欠点があった方が親しみ易い。加えて敬愛する彼方を見まねて困っている人がいれば助けてあげようとする性格だ。 ありていに言えば女の子にモテるのである。 これが中等部や高等部での話ならば「あの野郎モテやがって」とやっかみで済むのだが、初等部の男子にとっては「あいつは女子の味方だろ」という見方になる。 嫌われるわけではない。しかしその評価は、少年たちが敬遠するのに十分であった。 遙は悩みに悩んで、結局は彼方に泣きついた。たかがそんなことぐらいでと笑いとばしたりしないのが彼方である。 彼方自身、小学生時代は両親の仕事の都合で何度も転校を繰り返した。その時の経験からすると── テレビ画面の中の映像を眺める。 君の家にもセイバーギアがやってくる! 数百数千種類ものセイバーギアパーツ! 君だけのカスタマイズ! 無限のセイバーギアから君だけのセイバーギアを掴み取れ! セイバーギアシリーズ、絶賛発売中! さぁ! お店にダッシュだ! 「やっぱりこっち方面かな」 ──結論を述べると、天堂 遙はセイバーギアを介して男子生徒たちとの交遊を得る事に成功した。 『セイバーギア』。 それは小学生の間で大人気な遊戯のことで、セイバーと呼ばれる特殊なハイテクを駆使したフィギュアを動かして戦わせる新世紀ホビー。プレイヤーはバトルの勝敗に誇りのすべてを賭けるのだ。 玩具好きな双葉学園初等部の生徒たちの間でも、この『セイバーギア』ブームは熱く静かに広がっていた。 いつの時代でも対戦遊具は子供たちにとっての大切なコミュニケーションツールである。 初対面であっても、互いにセイバーを手に向かい合えばそこに関係は生まれる。熱いバトルが繰り広がれば、それだけ関係も深いものへと成長していくものだ。 しかし、ただセイバーギアで遊ぶだけではダメだ、と彼方は言った。 初等部とはいえ高学年ともなれば、独自のカスタマイズや戦術を駆使するスポーツのレベルに達する世界である。素人があからさまに仲間に入れてもらうためだけに手にするということは反感を招きかねない。 やるからにはある程度のレベルを見せなければ受け入れられないだろう。 彼方はセイバーギアを遙に勧める際にみっつのことを課した。 ──セット販売されているキットではなく、パーツ単位で購入しオリジナルで組むこと。 ──自分のお小遣いで買える範囲のパーツで組むこと。 ──勝てなくてもいいけど、真剣にプレイすること。 もちろん素人がいきなりできるものではない。彼方はツテを使い何人かの指導者を手配していた。 セイバーギアは最新の機器を使用しているがやはり玩具であり、模型作りやラジコンの技術を持ち込むことが出来る。そちら方面での経験者が集められた。 ある者は渋々と。またある者は報酬に釣られて。だが、やはりノリのいい双葉学園の生徒である。いつの間にか誰もがのめり込んで遙に知識と技術を惜しげも無く注ぎ込んでいた。 そうして、およそ一週間もの時間をかけて一体のセイバーギアが完成する。 ──それは、一人のギアバトラーが誕生した瞬間でもあった。 自分のセイバーギアを手にクラスメイトに勝負を挑み、からくも勝利して賞賛を浴びる遙の姿を、陰から見守る彼方を始めとする指導者たちであった。 いつの世も、こうして子供たちはぶつかり合い、互いの理解を深めていくものなのである。 セイバーギア。彼らはそれを手に今日も戦うのだ。 『ギアバトル、レディ――ゴーーーーー・セイッ!!』 おわり? 一週間後、天堂 遙は再び遠野彼方に泣きついた。 「すみません、彼方さん……」 放課後、寮に戻りセイバーギアを持って彼方と待ち合わせた遙が頭をさげる。 その様はまるでご主人様に叱られてうなだれる子犬のよう。思わず「俺に任せておけ」と兄貴面するか「お姉さんに全部任せておけばいいのよ」と怪しい妄想をしてしまいそう。 「気にしない気にしない。僕としても気になることだからね」 とぽややんと笑う彼方。詳しく訊けばこの後クラスメイトとギアバトルをするのだという。 「こんどクラス対抗戦があるんです。五対五の試合で今のところ四人までメンバーが決まっていて……」 「なるほど、五人目に遙くんが選ばれたってわけか。でも他のメンバーの中に納得できないって言う子がいるんだね?」 はい、とうなずく遙。そこにはラルヴァを前に敢然と立ち向かった際の面影はない。これまで同年代の子供が周囲にいなかったせいか、他人からの敵意を向けられることに慣れていないのだろう。 それはこれまでのギアバトルでの対戦成績にも表れていた。ギリギリのせめぎ合いの際、相手に呑まれてしまうことがあるのだ。 (ただ仲良くってだけじゃ、やってけないものだしね。ここらできちんと立ち向かわないと) 「さて……」 遙たちがいきつけとしている玩具店に到着する。双葉区の店だけあって異能対応のセイバーギアのパーツも取り扱っているショップだ。 店内のセイバーギアコーナー。そこに十数人の初等部男子が集まっていた。おそらく遙のクラスの男子生徒のほとんどだろう。 集団の中から一歩前に立つ三人の少年と紅一点、一人の少女がいる。 (熱血、クール、博士、女の子……見事にアニメのキャラ構成だな。さしずめ遙くんは経験の浅い天才キャラかな?) 何気に失礼な評価を下す彼方。 「天堂、だれだその人」 彼方が評するところの熱血少年が訊ねる。口調から彼が遙の参戦に反対しているのだろうと分かる。 「この人は遠野彼方さん。僕の……」 「友達さ。そして遙くんにセイバーギアを始めさせた張本人でもある」 「師匠ってこと?」 「おれ知ってる。猫のひとだ」 子供のコミュニティに年上の者が入り込むのはタブーであるかもしれない。しかし、子供たちは違う世代もから大いに学ぶことがあるはずだ。そこまで深く考えているわけではないのだろうが、彼方はいぶかしむ視線をすべて受け流した。 「ところで、今回の件を取り仕切ってるのは君たち四人でいいのかな?」 「お、おう。俺は陽ノ下アキラ」 と熱血。続けて三人も自己紹介する。 「ボクは海野レイジです」クール。 「オレは大地ヒロシ」博士。 「私は星野ミコトです」女の子。 「うん、よろしく。僕は本来ならば見届け人として来たんだけどね。ちょっと気が変わった。……遙くん」 「え?」 びしり、と遥に指をつきつける。 「──遠野彼方は、きみにギアバトルを申し込む!」 バトルステージのそれぞれの立ち位置について準備を進める彼方と遙。 「なんでこうなるんだよ?」 憮然としてアキラ。事が自分たちの手から離れて進むことに納得がいかないのだろう。 『君たちが戦ったとして、どちらが勝っても禍根が残るでしょ。なら僕らの戦いを見て資格があるかどうか判断してみてよ』 彼方の言葉である。 「かこんってなんだよ、そもそも手を抜いて天堂が強いところ見せようって……」 「アキラのバーカ。そんなことするわけないでしょ」 「バカってなんだよ、大体お前が天堂をメンバーに入れようなんて言い出すから──」 「ふたりともいい加減にしないか。どんな意図があろうとも、バトルを見れば全て判る」 「そうそう、ギアバトルで誤摩化しがあればオレたち皆が気付く」 そんな会話を耳にしながら、これは是非とも遙を仲間に加えてやりたいと考える彼方。仮面をつけ黒マントに身を包み、悪役として彼らの前に立ち塞がってみたらどうだろうか? そんな妄想すら浮かぶ。 「ああそうか」 クスリと笑みがこぼれる。 「僕も燃えてるってことなんだ」 久しく忘れていた感覚。小学生時代、放課後に友達と競い合った気持ち。忘れ去られたはずのそれは、静かに心の奥で待ち続けていた。 こうして再び燃え上がる日を。 「ギアバトラー天堂 遙、セイバーは『九曜(くよう)』です」 バトルステージに遙のセイバーギアが立つ。 オーソドックスな人型だ。基本パーツを組み合わせたフレームに、オリジナルの外装を装着して甲冑を纏った鎧武者としている。 紅の鎧。太刀を手にした絡繰り武者『九曜』。それは遙の『式神』を模した姿であった。その『九曜』の背中からは異能の才能を持つ者だけが見る事の出来る十本の青白く光る糸、『念糸』が伸びて遙の指先に繋がっている。 ──双葉区で販売されているセイバーギアには他にはない機能がある。ギアバトラーの異能を反映させることができるのだ。 この『九曜』は、遙の『式神使い』としての異能を利用したセイバーギアである。 「天堂のセイバーはパーツそのものは特別なものを使っていない。だけどその強さはあの異能を利用したところだろう。リアルタイムで操作できるということは大きなアドバンテージだからな」 「へっ、セイバーはそうやって使うものじゃないだろ」 「もーすぐそうやってアキラはケチつけるんだから」 「レギュレーションには違反していない。セイバーそのものに馮依する奴だっているんだ」 「『九曜』起動」 静かに息を吐いて、遙は指を滑らかに動かして複雑な印を組む。『九曜』の目にLEDの光が点り、起動。その手にした長大な太刀を構える。その場に「おおう」と声が漏れる。セイバーギアはその起動の瞬間から見る者のテンションを上げて行くのだ。 「うん、いい感じだね。あれからまた手を加えたのかな?」 「はい、クラスの皆からジャンクパーツ分けてもらったりして。彼方さんはセイバー持ってたんですか?」 「実はあれから触発されてね。一週間かけて作っちゃったんだ。予想以上に大変だったけど。──これが、僕のセイバーだよ」 バッグから取り出されてバトルステージに置かれたそのセイバーギアに、会場にどよめきが広がった。 「なんだあれ!?」 「デコセイバーかよ」 「びゃっこたんだよ!?」 その言葉の通り、彼方のセイバーギアは「あの」白虎そのものであった。 醒徒会長藤神門御鈴が常に身のそばに置く最強クラスの式神「白虎」。 その姿はまさに白い虎猫のぬいぐるみ。大きな鈴をつけ、しっぽにはピンクのリボン。 本物よりもひとまわり小さいが、まさに瓜二つである。どう見てもバトルステージに似合っていない。ぬいぐるみにセイバーギアのフレームを内蔵したものだろう。 「ネタギアかよ、ふざけんな!」 アキラが叫ぶ。 ネタギア、デコレーションセイバーとも呼ばれるそれは、バトルを目的としたセイバーギアではなく、見せるためやイベント用に改造されたものである。当然真剣にバトルを競う子供たちからの評価は低い。ブーイングが起きる。 「ふざけてなんかいないよ。僕はこれで戦う」 そう澄まし顔で手にしているのはどう見ても猫じゃらし。どうやら操作補助のコントローラーらしい。これも一応レギュレーションには違反していないものだ。 「ギアバトラー遠野彼方、セイバーギア名はびゃっ──」 「びゃ?」 慌てて自分の口を塞ぐ彼方。 実は白虎関係のグッズを制作するには醒徒会の承認が必要なのであった。すくなくとも会長自身にサンプルの提出を求められている。これまでの特製びゃんこぬいぐるみや、びゃこにゃん定食はそうであった。会長が欲しがっただけともいう。 今回のセイバーギアについては個人制作の一品ものだ。承認を必要とするものではないが、公式のショップでのバトルとなると色々煩いかもしれない。 なにより会長の機嫌を損ねてしまい、今後は白虎に触らせないなどと言われたりしては大変困る。 そこまで瞬時に考えて、彼方は咄嗟に名前をでっちあげた。 「セイバーギア名は『白炎(びゃくえん)』」 「びゃっこじゃねーの?」 「びゃこにゃんだろ?」 「いーの、赤いヨロイ武者ときたら『白炎』が正しい。憶えておくといいよ」 まるでネズミの国からの使者に怯えるかのように言い切る彼方。しゃーねーなーとエントリーデータを打ち込む店員。 「セットアップ」 猫じゃらし型のコントローラーを剣を掲げる騎士のように構える彼方。チカチカっと『白炎』の目が点灯し、「んなー」と声をあげる。その本物そっくりな声に、さきほどの『九曜』とは違う意味で「おおう」と声があがる。 『赤コーナー『九曜』VS青コーナー『白炎』』 「えっと、その、彼方さん?」 「遠慮はいらない。遙くんの持てる力すべてで掛かってきなさい」 『ギアバトル、レディ――ゴーーーーー・セイッ!!』 ゴングが鳴り響いた。 向かい合った紅の鎧武者と白き獣を阻むものは、数十センチほどの空間のみ。 「征け『白炎』!」 「──!?」 彼方がコントローラーを前方に突き出した瞬間、『白炎』はその距離を一気に跳躍した。その体当たりをかろうじて躱す『九曜』。 「早い!?」 「なんだあれ!? ネタギアじゃないのかよ!」 「あのセイバーは相当な軽量化が施されている。おそらく着ぐるみの中身はほとんどアーマーをつけていないはずだ」 「それだけであんなダッシュができるのかよ。どんな異能なんだ!?」 彼らの目の前では『白炎』が素早い動きで『九曜』を翻弄していた。『九曜』の太刀の間合いの外から一気に踏み込み、体当たり、あるいは前肢を叩き付けようとする。 「違う! 彼方さんは異能使いじゃない!」 遙は思わず叫んだ。この動きは純粋にセイバーギアの性能だ。 「やばい、よけろ天堂!」 「きゃあ!」 『白炎』の右前肢がついに『九曜』を捉える。遙は咄嗟に『九曜』をジャンプさせ、ダメージを軽減しようと試みた。 ガッ! 跳ね飛ばされ、後方に投げ出される『九曜』。 「こらえろ、こらえろ!」 必死に糸を繰り、転倒を回避する。バックステップ。距離をとる。 ──追撃は、ない。 はぁっ、はあっ。 緊張のあまり息があがる。 んなー、と鳴く『白炎』。その背後に見える彼方は静かに微笑んでいた。 「よく耐えたね。今ので決まると思ったけど」 「彼方、さん」 『白炎』の猛攻は完全に予想外であった。最後の一撃はかろうじて反応できたが、あれで終わっていてもおかしくはなかった。しかし。 「──?」 ダメージはない。いくら甲冑の厚い部分で受けたとはいえ、あれだけの勢いで叩かれたからには破損があるはずだ。 「ひょっとして、それは──」 「気付いたようだね。そう、『白炎』の素早さの秘密はこの肉球にある」 んなー、と右前肢をあげる『白炎』。可愛らしいピンク色の肉球が見える。 「そうか、そういうことか」 「分かるのかヒロシ!?」 「あのセイバーのダッシュ力はあの柔らかい肉球でステージの床をグリップすることで生まれるんだ。オレたちが使ってるようなただのゴム製じゃない、かなり特別なものを使っているはずだ。でもそれだと耐久力が落ちるはず……」 「その通り。この肉球はシリコン樹脂製のものだよ、それも高級品さ。四つ足の安定力と大地をしっかり踏みしめることでこれだけの瞬発力を発揮することができる」 ちなみに彼方自身にそれほど高いセイバーギア関係のスキルがあるわけではない。彼方は、以前に特製びゃんこぬいぐるみの制作に関わったことから、その辺りのノウハウを手にしていたのだ。 外装である着ぐるみも刺繍部の協力があってのものだ。『ビャコにゃんをこの手の中に再現する』、そのコンセプトを追い求めてコネをフル活用してこの『白炎』作成に取り組んでいた。 「なるほど。おそらくたった一度のバトルで壊れても、最高の性能を発揮するのならかまわない。そんなレベルのものなんだ」 「くそっ、子供に真似できない金持ちバトラーめ」 「だけどそれって……」 ありゃ、気付かれたかと頭を掻く彼方。 「そう、この肉球だと打撃力に欠ける。殴った勢いも吸収してしまうからね」 「なんで爪をつけないんだよ」 「だよなぁ。トラなんだろ?」 その言葉にちっちっちと指を振る。 「分かってないなぁ。セイバーギアの『ギア』という言葉。これはバトラー同士ががっちり噛み合って物凄いバトルを動かすという意味があるんだ。ただ相手を破壊するための武器を僕の『白炎』は必要としない」 「そ、そうだったのか!」 「いや、そうなのか?」 観戦者の間にも意見が分かれるところだ。 「まあ、これはあくまで僕のポリシーということだけどね」 爪を出し入れする機能のパーツを使用することも出来るのだが、あくまでこれはデコセイバーなのである。──あのパーツ使うと可愛くなくなるし、というのが本音だ。 「くっ」 遙はおののいた。遙にとって彼方という存在は頼りになる兄、あるいはヒーローとさえ呼べるものであった。それが敵として目の前に立ち塞がっている。どうすればいい? ──勝てなくてもいいけど、真剣にプレイすること。 ふっとその言葉が蘇った。 それは彼方が遙に課した言葉。 真剣にプレイすること。 それこそが今、彼方が自分に対して行っていることではないか。 「……」 彼方に厳格な父の姿が重なる。全力での打ち込みを全て受け止めてみせる、と泰然とした姿だ。 「ということで遙くん。さあ回そう、君と僕とでバトルという名のギアを」 「──はい!」 遙は満面の笑みを浮かべた。この人は僕のことを友達と呼んでくれた。なら、それにふさわしい、応えられる自分でいたい! 「全力で、いきます!」 所詮は玩具。『九曜』の太刀も安全基準に応じた軟質素材で出来ているし、『白炎』もシリコン樹脂製の肉球に過ぎない。興味のない人間が見やれば狭い空間でガチャガチャぽこぽこぶつかり合っているだけにしか見えないだろう。 しかし、この場にいる全ての者には違う光景が見えていた。 ぶつかり合う闘気が火花を散らし、風景をぐにゃりと歪ませる。繰り出される攻撃に双方血を流し、咆哮をあげ、互いの誇りを賭けて命を削り合う姿が見える。 「『ダブルラッシュ』!」 うなななーと『白炎』が両前肢で襲いかかる。 「なんの! 『弧月乱舞』!」 『九曜』が迎え撃つ。 「すごい……」 誰かの呟き。それは全ての者を代表しての言葉であった。 「『白炎』、なんてやつだ。異能もなしにあれだけの動きをするなんて……」 「アキラ、お前の王虎(キングティーガー)であれができるか?」 「レイジ、お前こそ龍牙(リューガ)であれに対応できるのかよ」 「あのなめらかな動き、まるで生き物みたいだ。モーションをサンプリング? しかしあんなセイバーで再現できるわけは……」 「ヒロシ、あれはアキラのとは違う、虎の動きじゃない。猫の動きよ!」 四人組が目の前で繰り広げられるバトルに魅入られていく。いや、四人だけではない。クラスメイトやそれ以外にも店内の客が集まりギャラリーで人垣が出来ていた。 「流石はクラス代表メンバーといったところかな?」 オーケストラの指揮者のようにコントローラーを振りながら彼方。 「僕には異能はない。だけど持っている知識や経験は活かせる。それがセイバーギアというもの。猫の動きを再現する──僕には、それができる!」 「ありえない!? あんなぬいぐるみスタイルでどうやって!」 「──愛さ」 「愛!?」 「なんだそりゃー!」 「いやん☆」 「まて、そもそも白虎は猫なのか?」 『白炎』が『九曜』の太刀をかいくぐり、猫パンチを叩きつける。はじけ飛ぶ『九曜』の肩の装甲。 「──猫とは、人の身近にいる中でもっとも野生的な獣なんだ。人間は日本刀を手にしてようやく猫と同等になるとさえいわれているよ。遙くん、勝てるかな?」 双方のセイバーは同じくらいのサイズである。どちらも片手で持てる程度だ。だが『九曜』にしてみれば『白炎』は本物の虎を相手にしているようなものだ。たとえ武装しているとはいえ、その獣性は相手にするにはあまりにも強大だ。 だが。 「忘れたんですか? 天堂家は、『九曜』を用いて古来より妖魔と戦ってきました。獣退治なんてなんでもありませんよ!」 彼方に呑まれることもなく、臆せず挑む遙。 「『九曜』、ついていってるよ、あの動きに!」 「だがダメージを貰い過ぎだ。見ろ」 『九曜』の甲冑がまた破壊されてステージの床に散る。 「所詮、プラモを継ぎはぎして作ったやつだ。何度も衝撃を受ければああなるさ。それに対して『白炎』は着ぐるみの柔らかさでダメージを吸収している」 「ああ、柔らかい方が壊れにくい。スゴい発想だ。だけど弱点はある!」 「それは何!?」 「熱だ! 『白炎』は内部の熱が溜まって動きが鈍くなってきている、モーターがヤレてきてるんだ!」 「焦るな天堂! 引き延ばせば勝機はあるぞ!!」 ギャラリーから声援が飛ぶ。しかし。 「くぅっ」 遙は額にびっしりと汗を浮かべていた。実戦さながらの緊張に集中力を維持するので精一杯であった。 『九曜』は遙の異能で操作することを前提としたセイバーである。センサー類のいくつかを排除することによって異能感応ユニット搭載による重量増加のデメリットを解消している。 だが、それは『九曜』が自律稼働できないということでもある。全ての操作はギアバトラーである遙の負担となっていた。 遙の集中が途切れた瞬間、拮抗していたパワーバランスは崩れ去るであろう。そしてその時は迫っていた。 「ああ!」 『白炎』の跳躍からの攻撃を躱そうとした『九曜』が、操作を誤ったのか片膝をつく。 「勝機!」 着地から反転、助走をつけての体当たり。これで決める! しかし。 「なに!?」 高い接地性能を誇るはずの『白炎』が脚を滑らせ、膝をついた。 ──肉球の劣化? いや、これは!? 『白炎』の脚の裏に『九曜』の欠け落ちた鎧の破片がくっついていた。それが肉球の性能を封じ、ステージの床で滑らせたのである。 「まさかこれを狙っていたのか!」 「勝機はこっちに!」 『念糸』を繰る。『九曜』がとった構えは突き。斬撃を吸収してしまう『白炎』であっても、刺突までは防げまい。 「駆けろ! 『九曜』!!」 ダッシュ。真正面から突進する『九曜』。 「まだまだ!」 猫じゃらし型のコントローラーを、フェンシングのようにヒュンとひとつ回転してから突き出す。 カッと『白炎』の口が開く。口の中に光が点り、キュウンと回転音。 「放て! びゃっこビーム!!」 『がおー!』 ゴウッ! 『白炎』の口腔から何かが放出される。ビームではない。 「──!?」 だが、それが捉えたのは『九曜』ではない。『九曜』の太刀だけであった。 「上か!」 はっと見上げれば跳躍した『九曜』の姿。どうやってあの高さまで? どうして躱せた? その疑問のせいで反応が遅れた。 「腰をねらえ!」 誰かの叫び。 『九曜』は二度トンボをきって降下。狙うのはその叫びに応じて『白炎』の腰部! 「いけ! 『雷撃蹴』!!」 『九曜』の蹴撃は、『白炎』体内のスポンジの吸収力を超え、内部フレームにダメージを叩き込んだ。 ゴングが鳴り響き、アナウンスが勝者として遙と『九曜』の名をあげた。 ステージ上では『白炎』が目をグルグルモードにして機能停止していた。セイバーギアは相手を破壊することを目的としたゲームではない。一定値以上のダメージで勝敗が決するように設定されているのである。 わっと歓声があがり、クラスメイト達が遙をもみくちゃにする。 「すげー、やるじゃん!」 「最後のあれ、どうやったんだよ!」 「マジでねらってたんかよ!?」 手荒い歓迎。しかし誰もが笑っていた。 「お見事、遙くん」 「彼方さん……」 向き合う二人。どちらからともなく手をのべて握手をかわす。 「最後のジャンプ、こっちの攻撃を見越してのものだね? どうして判ったの?」 「あ、はい。彼方さんの『白炎』は話しをしてる時も口を開けて声を出してました。たぶん、熱を逃がしてたんだと思いました」 「あちゃ、バレてたか」 うーん、ハッタリ下手だなぁと頭を掻く。 「だから『白炎』の口には他にも何か仕掛けがあると考えたんです」 おおーと周囲からも感心する声。 「うん、実は『白炎』の弱点は最初から判ってたんだ。あれは体内の熱をファンによって強制排出する機能だよ」 ビームじゃないじゃんと突っ込みが入る。 「いや、熱風にすぎないといっても、熱感知センサー搭載タイプには目つぶしとしては効果的だ。過熱しやすいセイバー相手にも有効な、立派な技だと思う」 ヒロシの解説に何人かが頷く。心当たりがあるギアバトラーだろう。 「しかしわざわざ口の中までLEDを搭載するのはムダではありませんか?」 「いや、だってやっぱり必要じゃないか、びゃっ──げふんげふん」 「びゃっこビームってはっきり言ってたよな」 「そうそう」 「それはともかく」 強引に話題を変える。 「熱感知センサーのない『九曜』には目つぶしにはならないけど、少なくとも警戒させることはできると思って発射したんだ。それをあんな風に躱すとは予想もつかなかったけどね」 「──これだ」 レイジがステージの一角を指し示す。そこには『九曜』の太刀が床に突き立てられていた。 「この床のパネルのつなぎ目に剣の先を刺して、棒高跳びの要領で飛び上がったんだな?」 うん、とうなずく遙。理屈は判れどそれを実行できる者がどれだけいるか。 「そして『白炎』の弱点が腰であること……良く判ったね」 「アキラ?」 あの瞬間、遙に指示を出したのは誰あろうアキラであった。 「俺もトラ型セイバー使いだからな。弱点は共通だと思ったんだよ。それにあれだけの動きをするんだから、邪魔になる装甲は全部とっぱらってあるはずだし」 素晴らしい、と彼方は何度も頷いた。 「猫の動きは腰の柔軟性によって成されているんだ。可動域を確保するためにギリギリまでパーツを削ってある。その分耐久力は落ちるけど、あそこをピンポイントに狙える相手はそうはいないと思ってたからね」 「すげえな天堂」 「ううん、あそこで教えてもらわなかったら狙ってもいなかったよ。でも、陽ノ下くん、どうして?」 「──アキラだ」 ぶっきらぼうにこぼすアキラ。照れている。 「チームメイトになるんだからな。名前で呼べよ。俺も遙って呼ぶからな!」 「え……」 差し伸ばされた手に、思わず彼方を見る遙。彼方は無言で頷いた。 「よろしく、アキラ」 「おう」 強く握りあう手。再び歓声があがった。拍手が店内を満たす。 「よろしく、遙くん」 「だが、まだまだ課題は多いぞ。敵は強い」 「まずは装甲の強化と軽量化だな」 「……ありがとう、皆」 チームメイトに囲まれて、遙ははにかみなから微笑んだ。 ここに来るまでの不安やわだかまりはもうない。あるのは新たな友情という名の絆である。 「次は誰がやる?」 ステージ上を片付けた店員が訊ねる。その場にいるギアバトラー達は一斉に手を,声をあげた。 「へへっ、俺も負けてられねーぜ!」 「俺、このパーツ買う! 俺のセイバー、完成させるんだ!」 「じゃあ、余ったやつ、このパーツと交換しようぜ」 その光景を少し離れて見やる彼方。 玩具による戦いによって育まれる友情は幻想であろうか。 ──答えは否である。 ぶつかり合うことで生まれる気持ちはどれも本物だ。 ここにあるものは全て確かに存在している。 それは彼らの心の中に、宝物として残り続けるであろう。たとえ歳を重ね忘れ去ったとしても、ずっと心の奥で輝きを失わず再び燃え上がる日を待ち続けるのだ。 遠野彼方は普通である。 彼らと同じ年の頃、同じように友達と競い遊び合った。 そして今もなお、その気持ちはここにある。 彼方は、こう訊ねた。 「皆、セイバーギアは好き?」 ──もちろん、その答えは 彼方の手の中で、再起動した『白炎』ががおーと鳴いた。 #ref error :ご指定のファイルが見つかりません。ファイル名を確認して、再度指定してください。 (がおー白虎2.JPG) 数日後。 『九曜』対『白炎』のギアバトルは、あのショップの『今週のベストバトル』に選ばれ、動画配信された。 そのことが双葉でのセイバーギア界に少なからず影響を与えていることを、まだ誰も知らない。 醒徒会執務室。 醒徒会長藤神門御鈴が猫じゃらしに似たコントローラーを振っていた。 『うなー』 それが左右に揺れるのに反応し、前肢をくいくいっと動かすのはもちろん『白炎』だ。 「おお、なかなか良くできてるではないか。こうして見ると兄弟みたいだぞ白虎」 「うなー?」 『白炎』が『ダブルラッシュ』という名のじゃれつきをするさまを不思議そうに見やる白虎。 御鈴は、遠野彼方が本来楽しみたかったモードで遊んでいた。監修という名目で一時的に彼方から提出されたものである。 もともと、彼方がやりたかったのはこうしてナデナデしたり肉球をプニプニすることである。それらのためにこだわり抜いた結果、意外なまでのバトル性能を得たという事実は、セイバーギアの奥の深さを現していると言えよう。 「ガキの玩具だろ。大人のレディが遊ぶものじゃない」 大晦日の料理大会のように、また大会を開催するなどと言い出さないよう牽制の言葉を吐きながら、醒徒会会計の成宮金太郎がそれを見やる。 「大体こういうのは金をかければ強いっていうわけじゃない。一体幾らつぎ込んでいるんだソイツは」 目の肥え金太郎は『白炎』の外装の生地が高級品であることを見抜いていた。おそらく内部パーツの総額よりも一桁上の金額になるはずだ。 「なんだ詳しいのだな」 「……いや、別に」 「でも、可愛いじゃないですか。女の子でもこういうの欲しがると思いますよ」 と水分理緒。 「そうだな……」 デコレーションセイバーといえば一部のマニアしか手をつけないジャンルではあったが、動くぬいぐるみとして欲しがる層は開拓できるのでは? と金太郎は思いついた。 実際のところ『九曜』対『白炎』のギアバトルの配信は、異能を持たないギアバトラーを奮起させ、同時にバトルに興味のない女子生徒たちにも可愛らしいと興味を持たせているのだ。 通常のギアバトルとは別に、デコセイバーコンテストなどで人を呼べるかもしれないなどと、つい考えてしまうのだった。 そのせいで金太郎は気付かなかった。御鈴が『白炎』をじっと見つめていることに。 「……」 ひょっとしたらひょっとすると、『ビャッコタイガー』という名のトラ型のセイバーを操る、謎の覆面ギアバトラーが誕生したりするかもしれない。 また、ある場所では── 「遠野彼方、セイバーギアに手を出したらしいな」 「我らの野望を邪魔した男」 「だが、セイバーギア界こそ我らが得意とする舞台」 「さよう、にっくきあの男を打ち倒し、我らの悲願を達成するのだ」 「第43ロボ研の復活の為にも、奴には鉄槌をくれてやらねば」 「では刺客として俺が行かせてもらおう。我が『黒炎』にかかれば奴のセイバーなど赤子も同然よ」 ギャリギャリギャリと、不気味な音をたてて一体のセイバーギアが頭をあげる。 深く静かに、闇が動き始めていた。 『セイバーギア』。 それは小学生の間で大人気な遊戯のことで、セイバーと呼ばれる特殊なハイテクを駆使したフィギュアを動かして戦わせる新世紀ホビー。プレイヤーはバトルの勝敗に誇りのすべてを賭けるのだ。 玩具好きな双葉学園初等部の生徒たちの間でも、この『セイバーギア』ブームは熱く静かに広がっていた。 「バトルしようぜ!」 いつの世も、こうして子供たちはぶつかり合い、互いの理解を深めていくものなのである。 セイバーギア。彼らはそれを手に今日も戦うのだ。 『ギアバトル、レディ――ゴーーーーー・セイッ!!』 おわり おまけ 「ふむ。これが例のセイバーギアというやつだな?」 柊キリエが『白炎』を手に取る。 「男というのは本当にいくつになってもこういうのが好きなんだな。一体幾らかかったんだ?」 彼方がこだわったという外装の手触りはすべすべで、かなりの高級生地であると判る。ひょっとしたら魔女たちが使う帽子やマントの生地に匹敵するかもしれない。 「えーっと、全部で◯◯円くらいかな?」 彼方が言う金額を聞いてキリエの視線が冷たいものになる。貰ったお小遣いをどう使おうが勝手だろうに、また無駄遣いして! と叱る母親のような目だ。 「彼方くん、キミは本当に莫迦だな」 「うわっ、そんなにしみじみ言わないでよ! いつだって男のロマンを殺すのはそういう女の冷めた一言なんだ!」 「その資金を捻出する為にキミはあんな危険なバイトをして、ここ暫くはこうして逢う時間まで削ったというわけか、大体初等部の子を相手に大人げない真似をしてロマンもなにも──」 ポキリ。と、キリエの手の中で音がした。 「──!?」 「すまない、壊れた」 ぎにゃーと悲鳴をあげる彼方。 いつだって趣味に理解のない者は、このようにたやすく破壊をもたらすのである。 トップに戻る 作品保管庫に戻る
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尻のあたりに車を付けた女だよカーネーサンはいい使徒と言われるほどアドバイスくれるんだよ!
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市原和美 「そりゃあついて行くに決まってるじゃないッスか。暇ですし」 基本情報 名前 市原 和美(いちはら かずみ) 学年・クラス 高等部1年C組 性別 男 年齢 15 身長 172cm 体重 66kg 性格 表向きバカ。ただし裏もバカかもしれない。ヒーロー願望があるが、誰か特定の相手のヒーローであれば満足だという類。割と命知らず。舎弟体質で年上・目上に弱い。多少不真面目。時に猪突役、時にストッパー役。意外と小言やしつけの才能がある。 生い立ち 幼少時に特筆するべきところはない。ちょうど中学選びの頃に異能力が確認され、周りの空気を読んで学園へ入学。が、中等部時代は割と荒れていたらしい。4つ下の妹がいる他、両親、祖父母まで健在。 基本口調・人称 だ、ぜ・目上には~ッスなど若者敬語が混ざる オレ、アンタ、センパイ 特記事項 体格はそこそこがっちりでまだ成長期。鼻筋が凛々しく、しっかりした顎を持つ健康的美青年の器(誠司談)スポーツマンを意識して硬めの髪を側頭部刈り上げにしているが、強面のため時折ヤンキーと間違われる。左投げ右打ち。箸も右。異能力の都合上エンゲル係数がヤバイ。 キャラデータ情報 総合ポイント 20 レベル 6 物理攻防(近) 2 物理攻防(遠) 2 精神攻防 3 体力 4 学力 2 魅力 3 運 4 能力 時間限定の「不死化」能力 特記事項 異能力発動時には馬鹿力補正がかかる、かもしれない その他詳細な設定 能力 身体の魂源力をほぼ全て使って、約30秒間(より正確に表現すれば、精神攻防値の10倍程度の秒数)不死身になる異能力を有する。 発現時間中であれば如何なる事象によっても死ぬことはない。時間中は超絶的な再生復元能力(脳なども含む)を発揮する。 なお身体強化系ではないが、身体が損壊するほどの力を振り絞るといった無茶が可能となる。 発動プロセスはむしろ『何かに対価として魂源力を払う契約』のようなもの。魔術系ではないかとも言われるが、肝心の契約対象がいないので例え話の域を出ない。 発動は任意で一瞬、見かけ上の変化はなし。一度能力を使うと、魂源力が必要量に充足するまでは発現不可能。特に「食べる」ことで魂源力の充実が飛躍的に早まる。 装備 手先や拳の保護をする手甲。指先を守る他、もっぱら馬鹿力で障害を無理やり取り除くのに使う。 中等部時代から徒手空拳と射撃の訓練を受けているが、あまり真面目に参加していなかったので習熟は微妙。ガキ同士のケンカなら、異能力のせいもあってそこそこ強かった。 半年ほどの部活動によって、人を庇うスキルの方がよっぽど磨かれている。 特徴 双葉学園レスキュー部の唯一のヒラ部員。「舎弟その一」は自称かつ他称。レスキュー部が出来てしまった理由の大半は彼のせい。 異能力のせいもあって無茶しがち。部長である菅誠司を、ダメなところ込みで割と尊敬している。 対ラルヴァ戦闘部隊の参加頻度はまだあまりない。あっても大体壁役である。 登場作品 登場作品のリンクを貼ってください。後から追加もしていってください 作者のコメント 何か付け加えたいことや言いたいこと、キャラに対するこだわりがあればここに
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「ちっくしょう」 俺は携帯電話に送られてきたいくつものメールを見ながら溜息をついた。 メールはどれもこれも『今日のコンパには参加できません』と言ったような内容ばかりで、つまるところ俺はみんなにドタキャンされてしまったということである。 予約した居酒屋のテーブルに、ただ一人俺だけが座っていた。なんて寂しい状況なんだ。というかこれって新手のイジメじゃね? 大学生になってまでこんな惨めな思いをすることになるなんて思ってもいなかった。あいつら絶対このツケ払わしてやる。 このままここにいてもしょうがないと思った俺は、もう帰ろうと何も注文しないまま席を立った。 「おいそこのあんた。なんだ? ドタキャンでもされたのか? こっちで飲んでいかないか。奢るぜー! ははははは」 すると、隣の席に座っていた俺と同じ大学生ぐらいのニット帽の男が話しかけてきた。既に相当酔っぱらっているようで、大量の空ジョッキを店員さんが困った顔で片付けている。 「いや、俺は別に……」 知らない人といきなり酒を酌み交わせるほど俺はコミュ能力に長けていない。酔っ払いに絡まれるのは避けたいので、このまま通り過ぎようとしたが、 「いいから飲めって。ほら!」 そう言ってニット帽は無理矢理となりに俺を座らせて、ビールを飲ませやがった。 「なにするんだよ!」 「いいじゃないか。居酒屋に来て酒飲まずに帰るなんて罰当たりもいいところだぜ」 「くそ、わかったよ。飲めばいいんだろ」 俺も酒が嫌いなわけじゃない。一杯だけ付き合ってそのまま帰ろう。そう思って俺は残りのビールを一気飲みした。 「あんたも一人で飲んでるのか?」 俺はニット帽の男に尋ねた。広いテーブルに座っているのに一人で飲んでいるなんて妙だ。場所を取り過ぎじゃないか。 「いや、もうすぐ仲間二人が来るんだ。おれだけ先についちゃったから飲んで待ってるんだ。おっと、ほら、来たみたいだ」 ニット帽が居酒屋の入り口に指を差すと、二人の男が入ってきた。一人はサングラスの男で、もう一人はモヒカンの男である。ガラは悪そうだが、ニット帽と同じく俺と同じ二十歳過ぎぐらいだろう。双葉大学の学生だろうか。 「連れが来たなら俺はこれで」 と席を立とうとしたのだが、ニット帽は俺の方に手を回して逃がさないようにしていた。 「おいお前ら、こっちだ。待ちくたびれたぜ。さっさと飲もうや。新しい飲み友達もできたぞ!」 「おお。よろしくなー」 「はははは。今日は吐くまで飲むぞー」 その二人は俺のことを特に気にすることもなく、席について日本酒やら焼酎やら好き勝手に頼み始めた。 「はあ……」 俺は覚悟を決めてこいつらの酒に付き合うことにした。 「がははははは。そりゃねえよ。どんな女だそいつは!」 飲み始めて二時間後、酔いのせいもあるのか、俺はすっかりこの三人たちと馴染んでバカ話に花を咲かせていた。案外こうして話してみると気さくな連中で、結構面白いと俺は思った。 「そうだ、女って言えばよ」ニット帽の男はそう言って生ビールを一気飲みした後、話を続けた。「女と言えばお前らさあ、女のどの部分が好き?」 「どの部分ってどういうことだよ。ヒック」 俺が尋ねると、代わりにモヒカンが答えた。 「そりゃおめえ、女のいいところさ。俺は断然、胸だ。なんといっても女の良さは全部おっぱいで決まるね!」 モヒカンはぼいんぼいんっと胸の前で巨乳を表すジェスチャーをしていた。確かにおっぱいはいい。俺は生まれて二十年、女性のおっぱいなんて母親のしか知らないが、それでもいつか触ってみたいと夢見ている。 「胸かー。いいよな。あのぷよんっとした弾力。あれは女にしかない物だ。見てるだけでも涎が出てくるし、形がいいのは我慢できずにしゃぶりつきたくなってくるね」 サングラスは下品なことを言ってひひひと笑った。しかし今日は周りに女性客もいないので、安心して下ネタだって言えるというものだ。俺もこうしてはめを外した話をするのは久しぶりなのでテンションが上がってきた。俺も話に入って女の子の好きな部分を話す。 「俺はあれだな、おっぱいよりお尻がいい。こうきゅっと締まった感じの」 頭の中で縞々パンツを穿いた女の子のお尻を俺はイメージする。小尻というのはいい。ずっと触っていたり、顔を埋めたりしたくなる。 俺はしたり顔で尻について語っていたが、三人はぽかんとした顔になっていた。 「尻……尻か。わっかんねえな」 「まあ。肉付きのいい尻ならわからんでもないが……」 「小尻ねえ。何がいいのかさっぱりわからん。尻なんか舐めるのも嫌だねおれは」 三人はう~んと唸っていた。なんだかバカにされている気がする。 「じゃああんたはどこがいいんだよ」 俺はニット帽を睨み、酒を呷る。ニット帽は「おれか?」と腕を組み、しばし考えていた。 「そうだな。おれはやっぱり――太ももだ!」 カッと目を見開き、ニット帽は自信満々に言った。 「ふともも?」 「そうだ。女の短いスカートから伸びるあの足。肌は白ければ白いほどいい。柔らかさと筋肉の堅さが生み出す芸術的な曲線。あれほど素晴らしい部分は他にはあるまい」 つらつらとニット帽は太ももの魅力について語った。確かに女子高生の太ももというものは難とも言えないエロさを感じる。変にパンツが丸見えになるよりも、スカートからチラチラと太ももが覗く方がよっぽどそそられるだろう。 「じゃあ俺はうなじがいい!」 モヒカンはニット帽に負けじとそう言った。 「またお前……そんなところいいか?」 「いやあ、骨にそって舌を這わせながら背中の肉を甘噛みしていくのが好きなんだ。たまんねえぜ」 「俺はベタに二の腕だな。特にぽっちゃりしている女の二の腕はいい、最高だ」 「ぽっちゃり系か。ならおれはぽっちゃりした子のお腹がいいな。贅肉だらけだが、たまには味わいたい」 「あーいいなー。久々に女の子とよろしくしたいねー!」 わいわいと三人は盛り上がり、俺もどんどん楽しくなってきた。こうして女性に対しての嗜好を話し合うなんてことはあまりしてこなかった。今日は酒の力もあるが、こいつらと話しているのが楽しくてしょうがない。 こうして気兼ねなくこういう話が出来るのが本当の友達かもしれないと、俺は仲のよさそうな三人組を見つめた。 俺もこいつらと仲良くなりたい。今夜限りの、居酒屋だけの付きあいだけではなく、これからも大学で楽しくやれたらいいな、と思った。 だけどそんなこと直接言うのも気恥ずかしい。こんなこと考えるのも酒の飲み過ぎのせいだろうか。少し頭を冷やそう。 「悪い。ちょっとトイレ行ってくる」 「おーうんこかーうんこなのかー」 「吐くなよ! 絶対吐くなよ! 俺の奢りだから勿体ないだろ!」 「げははは。無茶言うなっての」 三人組の笑い声を背に、俺はトイレへと向かうために席を立つ。すると、居酒屋の入り口から一人の客がやってくるのが見えた。 その客の姿はあまりにも居酒屋という空間に場違いであった。 どう見ても二十歳未満の少女だ。しかも制服姿である。何故か彼女の手には刀が二つ、握られていた。 というか酒のせいですぐに頭が回らなかったが、彼女の顔を俺は知っている。 「あ――」 と俺が言いかけた瞬間、少女は地面を蹴り、凄まじいスピードで駆け出した。その勢いはつむじ風の如くで、目で追うことも難しい。 少女はとんっと跳躍したかと思うと、俺のすぐ後ろの三人組が座っているテーブルへと着地した。 そして男たち三人が反応を示すよりも早く少女は抜き身の刀を閃光のように降り、同時に彼ら三人の首が宙を舞った。 「え? え?」 突然のことに混乱している間に、俺は三人組の首の断面から噴水のように噴き出た血を全身に浴びてしまった。思考が停止してしまう。 「な、なんで……?」 俺は悲鳴も上げることもできずに床に転がった三つの首を見つめた。 だがそこにあったのはさっきまでの人間の顔ではなく、恐ろしい鬼の顔をした生首だった。大きな牙がずらりと並んでいる。 「すまないな驚かせて。だが逃がすわけにも行かずに素早く決着をつける必要があったのだ。許してくれ」 茫然とする俺の肩をぽんと肩を叩いた。少女の腕には『風紀委員』の腕章がある。彼女は風紀委員長の愛洲《あいす》等華《などか》だった。 「こ、こいつらはいったい……?」 必死にそれだけの言葉を押し出すと、愛洲は説明をしてくれた。 「彼らは人食い鬼だ。しかもか弱い女の子ばかりを主食にしていて、全国で指名手配されていたのだ。人間に擬態できるため今まで逃げ延びてきたようだ。もっとも、異能者には通用しない擬態だからな、双葉区で目撃情報があったから風紀委員たちで追っていたのだ。まさかこんなところでのうのうと酒を飲んでいるとは思わなかったが」 もうすぐ応援が来てラルヴァの後処理をしてくれるだろうと言って、愛洲は刀の血をふき取っていた。 彼女の説明を聞いて俺は寒気を感じた。一気に酔いが冷め、嫌悪感だけが湧きあがっている。 そして俺は悟った。 彼らが言っていた女の子の好きな部分というのが、性癖やフェティシズムではなく、ただ純粋に“食べておいしい部分”を楽しそうに語っていただけだったということに。 終 トップに戻る 作品保管庫に戻る
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ラノで読む(推奨) 「ごちそーさまでした」 パジャマ姿の女性が一人、手を合わせて食事を終えた。テーブルには、綺麗に平らげられた皿や茶碗が並んでいる。本日のメニューは、秋刀魚《さんま》の塩焼きに大根の味噌汁、後はセールで買ったカボチャを煮つけにしたもの。米は玄米で、一膳だけおかわりした。 一部では『至高帝《ザ・ハイランダー》』とも呼ばれ、街のチャレンジメニュー店を総なめにする程の胃袋を持つ彼女ではあるが、普段はごく質素な、普通の食事をしている。大食いは『食べられるときに食べておけ』というある種の本能が働く結果なのだ。 (つかれたぁ……) 歯を磨きながら、一日を回想する。平常どおりの授業に試験採点、異能教育関係教員のミーティングに特別講義。これはする方と受ける方の両方だ。幸いラルヴァが出てきたりはしてないが、それでなくとも多忙な日だった。料理をする時間があったのが驚きなくらいである。 ざぶざぶと食器を洗い、カゴに立てかけておく。昨日の分は乾いていたので仕舞った。ざっと流しを拭いて、布巾も水ですすいで干しておく。 「……これは、明日かな」 鍋の中にまだ少しだけ残っているカボチャを見た。カボチャの煮つけは足が速く痛みやすいが、一日ぐらいなら大丈夫だろう。 (……ダメだ、眠い。シャワー浴びたし、もう寝よう……) 何か本を読み返そうかと思ったが、頭が睡眠を要求している。というよりも、そろそろ寝ないと明日が辛い、という時間帯だ。 ふらふらとベッドへ、仰向けに倒れこむ。シャワーを浴びたときに解いた、普段三つ編みにしている髪が扇形に広がる 「おやすみなさ~い……」 もう十月の末、そのまま寝ると寒いので、もぞもぞと身体を動かして布団の中に潜り込んだ。流石にまだ、あまり暖かくない。一日やり切ったという充足感を持って、ずぶずぶと眠りの中に潜って行く。 ……だが、彼女、春奈《はるな》・C《クラウディア》・クラウディウスの一日は、まだ終わっていなかった…… おーじょさまとかぼちゃとかぶ その異変は、真夜中に起こった。 (……目、覚めちゃった) ベッドの中で、春奈がゆっくりと目を開ける。唐突に眠気を全部奪われたような、異様な感触がする目覚め。ゆっくりと身体を起こすと、さらに異様な光景が目の前に広がっていた。 小さな光が、一列に外へと連なっている。順番にちらり、ちらりと瞬き、まるで自分を外へと導くような感触を与えられる。 「スルーさせて……は、くれないよね」 眠い目をこすりながら、半纏《はんてん》を羽織る。こういう輩には、付き合うのが礼儀というものだ。 ちらりと時計を見ると、午前二時でピッタリ止まっていた。何かの力が働いているかのように。 (……夢の中、っていう可能性もあるかな) 二度寝すれば逆に目が覚めるかもしれないが、そもそも眠くないのでそれは出来そうに無い。仕方なく立ち上がり、光が連なる方向へ行ってみることにした。 光は、外まで連なっている。それが指している方向は、確か双葉山がある……そこに行け、という事なのだろう。 パジャマに半纏を羽織っているだけだが、不思議と寒くはない、さらに、いくら歩いても疲れる気配もない。体力がある人は、こんな感じなのかなと少し羨ましい気持ちを抱いた。 双葉山へもう少しというところで、ようやく彼女は違和感に気づいた。 何の気配もしない。確かに今は深夜で、どこの家も電気を消しているが、それだけではない。道は車が一台も通らないし、街灯も点いていない。何より、人間文明勝利の産物であるコンビニが、どこも閉まっている。二十四時間営業の筈なのに。 「……やっぱり、これは」 夢か、幻覚の類だろう。と春奈が独り言を言おうとしたその時、幻覚とは思えないはっきりした声があたりに響いた。 「おおーい、シロやーい、どこ行ったー?」 その声の主を見やると……『大きい』少女が目に入った。 まず背丈が大きい、そして胸が大きい。あとついてに声も大きく、そしてやっぱり胸が大きい。金髪碧眼の欧米風美人だが、その『大きい』イメージに圧倒されて、なかなかそっちには目が行かない。 「およ? そこの子ー、こんな夜遅くにどうしたい?」 その少女が春奈に気づき声をかける。授業のときに居たような、居なかったような……というか、春奈は完全に年下扱いされている。容姿だけ見れば当たり前なのだが。 「それはこっちの台詞だよ……えっと、学園の生徒さん、でいいよね?」 「うん、高等部2年。キミもそう? やっぱり初等部? それとも背伸びして中等部?」 「……教員」 「……ホントに?」 とにかく大きい少女、アクリス・ナイトメアと合流し、光に誘われるまま双葉山を登る。アクリスはこういう所に慣れているのか、ひょいひょいと軽い足取りだが、春奈の方はそうもいかない。疲れることがないのが幸いだが。 彼女も、話を聞く限りでは春奈と同じらしい。起きたら一人きりで、光の線を辿って来たという。 「それで春奈ちゃん、シロ見なかったです?」 「ここに来るまで、人はもとより生き物はなんにも見てないよ。多分、他の生き物も……」 言いかけたところで、止まった。 ここまで彼女達を誘導していた光が途切れ、そこに一つの影が立っていた。輪郭しか見えない、男性とおぼしき影は、火の点いた石炭を入れたランタンを左手に持っている。そのランタンは、しなびたカブでできていた。 「おお、呼びかけに答え、よく来てくれました!!」 男の影は、大仰な声を挙げて歓迎するようなそぶりを見せる。何か腹に一物持っていそうな声だ。 「うさんくさーい」 「それで、貴方のお名前と……あたしたちを、ここに呼んだ理由は?」 「私はウィリアム、この山にひっそりと住まう『カブのランタンを持つ者の町』の町長です。あなた方の言葉を借りれば、ラルヴァ……に、なるのでしょうか」 「……カブのランタンに、ウィリアム……ああ、ハロウィン……」 「春奈ちゃん、なんでカブなのにハロウィンですか?」 納得したような様子の春奈に、アクリスが横から口を出す。なお、さっきから敬語がおかしいのは基本らしい。 「ハロウィンの風習が出来たころは、カブでランタンを作ってたの。それがアメリカに伝わったとき、カブが無いからカボチャで代用して、それ経由で日本に来たから日本でもカボチャを使ってるんだよ」 「そーなのかー」 「そう、そこなのです!!」 「そ、そこなんだ……」 春奈の知識披露に、今度はウィリアムが食いついた。 「先日から、近くの洞窟にカボチャの怪物が住み着いたのです。我が物顔で私たちの畑を勝手に作り替え、あまつさえ生贄さえ要求するようになったのです。このままでは我々は……」 「……正直な話、どうでもいい」 「同感」 「そこで! お二人にどうか! その怪物を退治していただきたい!!」 ウィリアムが泣きそうな顔で二人を睨む。思いっきり独り言を聞かれていたらしい。 「めんどい」 「……それで、何か見返りは?」 「我々で出来る限りのおもてなしを、ご馳走を用意させていただきます」 「乗った!!」 「あたし達にできる事なら、なんでも!!」 こうしてご馳走に釣られた二人は、ウィリアムの先導で双葉山を進む。月も出ていない夜は、彼が持つカブランタンのみが頼りだ。 「あと、どれぐらいになるますか?」 「もう少し……ほら、見えてきました」 男が指差す先に、うっすらと大きな穴が見える。夜の闇とはまた違う闇を抱えたそれは、小さいながらも文字通り洞窟と言っていいだろう。 「あの中にカボチャのお化けがいる訳だ?」 「そうです。中は暗いですから、これをどうぞ」 ウィリアムが、どこかに持っていたもう一つのランタンを春奈に渡す 「あれ、貴方は……」 「私がついていっても、足手まといにしかならないでしょうから。ささ、よろしくお願いします」 ウィリアムが横へ退き、二人は促されるままに洞窟へと足を踏み入れる。 「本当に暗いですね……どれだけの広さなんだろう?」 「……!?」 何かを察知したのか、アクリスが後ろを振り向くが、時既に遅し。 ドドン……!! 「え? ちょ、何閉めてるんですか!?」 『怪物を倒してきたら開けてやるよー!!』 洞窟の入り口が、大きな岩で塞がれている。アクリスが思いっきり押してみるも、ビクともしない 「あたし達だまして、生贄にするつもりですね!?」 『あー!? 聞こえんなー!! とにかく頑張ってくださーい!!』 「どっかで引っかかってるのかなー? ぜんぜん開かないよ」 「……前に進んでみるしか、無いね」 その洞窟は、洞窟というよりも横穴と言ったほうが近いぐらい狭いものだった。二人が入ってきた入り口と、その奥にある少しだけ広い空間の他には何も無い。 「怪物がいそうな雰囲気なんて無いけど……」 春奈がキョロキョロとあたりを伺うのを、アクリスが制した。 「……春奈ちゃん、下がってて」 それと同時に、不気味な笑い声が洞窟に響き渡る。来たものをあざ笑うかのような不愉快な笑い。 『クケケケケケケ!!』 闇の中から、不気味に光る二つの目と一つの口が現れた。その光がそれ自体の輪郭を照らす……数メートルはあろうかという、巨大なカボチャの頭。 「春奈ちゃんの異能、戦い向きじゃないんだっけ?」 「うん……でも、一人じゃ」 「モーマンタイ! ご飯が待ってるんだから負けられない!!」 春奈を下がらせたアクリスが、何かを唱える。 「我、命ず《ジ・オーダ》……殲滅せよ《エクスターミネート》!!」 カボチャの攻撃は、どうやら特殊な炎を使ったものらしい。周囲に浮かぶいくつもの炎が、アクリスに迫り、打撃を与える。後ろから見ている春奈が炎の方向を伝え、それを辛うじて回避し続けている。 それだけなら良い。問題は、アクリスの攻撃がカボチャに効いていないことだ。アクリスの攻撃は肉弾戦に限られている。だが、何とか届いたその拳も、カボチャにダメージを与えた気配は無い。いくら頭が欠けても、構わず攻撃を仕掛け、笑い声を上げるだけだ。もしあのカボチャがエレメント種別のラルヴァならば、彼女達に勝つ術は無い。 春奈が見たところ、アクリスは自身の戦闘能力を『暗示』で引き上げて戦っている。昔、英国へ留学していた時に受けた異能力系統の講義で『我、命ず《ジ・オーダ》』についての話も聞いたことがある。強力な精神操作魔術らしい……何が理由かは分からないが、彼女はそれを自分に使用し、限界以上の力を引き出している。そんな状態で長期戦を強いることは出来ない。 (何か、突破口を開かなきゃ……ん?) その時、春奈は気づいた。 自分が持っているランタンの光、カボチャの怪物が持っている光、アクリスの周りを待っている炎の光、そしてその炎の動き……もしかして、という予感。負けてもそれほど損はない博打、春奈は当然のように、その予感に賭けた。 『アクリスさん、今から指示する方向を思いっきりぶん殴って!!』 「圧倒的にデストローイ!!」 「そろそろ仕上がった頃かなぁ……」 ウィリアムは、洞窟の外で待機していた。洞窟を塞ぐ岩の上に座り、先ほどとは違った不適な表情を浮かべて。 「|人間の世界《こっちがわ》に来るの何年ぶりだ? まあいいか、人間を食うのも久々だ。あのデカい女のほうは肉付きが良いから、食える場所は沢山あるだろ。小さい女の方は食えるところは少ないだろうが、その分柔らかくて美味そうだ。ああ楽しみだ楽しみだ……ん? 誰だー?」 洞窟の中から、男の声がする。中に居た仲間だろうか。 『終わったぞー、開けてくれー』 「おう、待ってろ」 ウィリアムが飛び降り、岩を横にずらして道を空ける。横にずらすだけなら、それほどの力は必要ない。 「どうだー、ちゃんと食えるようなべはぁ!!」 開けたとたん、彼は吹き飛ばされた。岩の隙間から、女性が二人出てくる。後ろから男が一人這ってくるが、そちらはもう虫の息だ。 「あー、やっぱり開放してる空間はいいよねー、閉所恐怖症になりそうだよ……」 「綺麗に飛んでったねー、蹴った手ごたえも良かったし」 大きく伸びをする春奈に、自分で蹴り飛ばしたウィリアムの方を見やるアクリス。アクリスの方に、虫の息だった男が這いよってきた。 「……い、言われたとおりにしたぞ、頼むから助けてくれぇ……」 「お前は最後に殺すと約束シタナ?」 「そ、そうだ!! た、助け……」 「あれは嘘だ」 「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」 アクリスの蹴りで、洞窟に逆戻り。 「あれ、あいつはどうしたの?」 「離してヤッた。あ、戻ってくるよー」 「お、お前ら……なんで!?」 「まったく、ウィリアムと聞いた時点で疑うべきだったよ……」 カボチャの怪物の正体は、恐ろしいぐらいあっけないものだった。 カボチャ自体はハリボテの中に石炭を入れたものであり、何の意味も無い。問題は浮いていた炎であり……あれは、ウィリアムの仲間達が、ランタンを持って殴りかかっていただけだった。目がカボチャに行くせいで気づきにくかったが、よく考えれば『炎で打撃を与える』という事自体おかしいのだ。異常な状況のせいで、二人ともそこまで頭が回らなかった。 カボチャの目の光と自分が持つランタン、そして周囲を飛ぶ火の玉が同じものだと気づいた春奈が、『迫り来る炎を目掛けて攻撃しろ』という指示を出したお陰で全員返り討ちにできた。アクリスの攻撃が勢い余って殲滅してしまう勢いだったので、最後の一人になった時に『もう敵はいない』と強く呼びかけることで(思い込みの激しい彼女だからこそだが)ストップ。最後の一人を使って脱出に成功した。 「審判の神様を騙して二回目の生を受けて、なお放蕩三昧の極悪人。そのせいで天国にも地獄にも行けなくなった哀れな男、ウィリアム……他の仲間達も、似たような人たちの集まりなのかな? それとも、分身とか?」 「あわ、わ、わ……」 「ねー春奈ちゃん、あのランタンの炎って誰から貰ったんだっけ?」 「ウィリアムを哀れに思った悪魔だよ。まあ、その悪魔も多分『人間にこれ見せたら面白いよなー』ぐらいに思ったんだろうね。あと、その光は人を危険な方向に誘導する、とも言うよ。それが狙いかも」 春奈とアクリスが雑談をしてるのを、身体を震わせながらウィリアムが見ている。足はすくみ、逃げられそうにも無い。 「さーて、何か言い訳はあるかい哀れなウィル君?」 「わ、わ、わ……」 「とりあえず、食べ物の恨みは晴らさないといけませんね」 アクリスが再び格闘の構えをとり、春奈がそこら辺に落ちていた木の棒を拾い上げたとき、ようやくウィリアムが口をきいた。 「私が町長です」 その夜、星が一つ増えた。次の夜にはもう現れなかったが。 「酷い目に遭ったねー」 「そうですね……」 まだまだ元気っぽい様子のアクリスに、ヘロヘロな様子の春奈が返事をする。既に光の誘導が無い山中を、どういう能力かは知らないがスイスイ降りていったアクリスに着いてきた結果だ。 「ご馳走もなんにも無いなんてひどいよねー、くたびれ損の骨折りもうけだよ」 「それ逆……あたしはこっちだから。明日、遅刻しちゃダメだよー」 「春奈ちゃんも、ダメですよー」 アクリスと別れ、一人でとぼとぼと家路に着く。先ほどまでとは違いコンビにも開いてるし、街灯もついている。 「早く寝ないと大変だぁ……下手したらもう夜明け前だし……」 次に春奈が見たのは、クリーム色をした、いつも見慣れている天井だった。 「ん、うゆ……あれ……?」 頭を振りながら、身体を起こす。時計を見ると、いつも起きる時間の三分前だった。 「……夢、だったのかなぁ」 なんとか起き上がり、玄関のほうへ向かう。特に靴はなんとも無く、山登りをしたようには見えない。気づいてみてみると、パジャマも特に土で汚れたりはしていない。 「……まあいっか、ご飯食べよう……」 分からないことは、考えないほうがいい。そう割り切ることにして、昨日の晩御飯の残りを食べることにする。昨夜炊いたご飯と、カボチャの煮つけが残っているはずだ。キッチンへ行って、カボチャが食べられそうかを確認することにした。 「……こ、これは……!?」 カボチャが入っていた筈の鍋にその痕跡は無く、大きなカブが一つ鎮座しているだけ。しかも生のまんまだ。 「……復讐、なのかなぁ……それとも、アレ? トリック・オア・トリート?」 カブに面食らいながら、春奈は考えていた。 (朝ごはんのおかず、何にしよう……さすがに切ってもない生のカブは食べられないよ) おわれ トップに戻る 作品投稿場所に戻る
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現在のスタッフ ◆.K5bmbGCto 企画・マスコット 音屋 ◆I9FjaPoAQM 進行 管理 サウンドクリエイター 童貞 ◆j/s5itKZFEan 進行 管理 必殺wiki編集人 ◆gjLV14vZGM wiki編集 シナリオ R-writer ◆pCb1Ke.www シナリオ シナリオ希望 ◆L/wkxhbS4g らすとぴーす ◆A2jRZzcQMc ライターたかし ◆Urf0QsbiPk タカハシジョン ◆uBO/y/Cka2 すく ◆os0Up0v3KRnU プログラム スクリプト REM ◆GAME/35iqE えびす ◆QdZkvBflxU イラスト 伊豆 ◆O7iKU7ceU6 ニーサン ◆M1Bei0tBWg アヘ顔の人 ◆neNQ3xu7fE じっぽ ◆KaiMMb2aQ6 りすてな ◆799dm5X/wE 加工屋 ◆BEC22aehQU 背景 くろねこ ◆HbpyZQvaMk サウンドクリエイター 朝霧 ◆GzDHK/0cas 映像 ◆Haru/x7Yf. OP、ED制作
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6 「21時40分」 立浪みくに部屋を追い出されたせいで、僕は手ぶらで学園に来てしまいました。 そのため歴史学部から貸し出された装備を一通り身につけてから、僕は指定された場所へと向かっています。 自分のものでない腕輪型通信機を、かちゃかちゃ調整しながら歩いていたときでした。 「こんばんは。いよいよ出陣ね、遠藤くん」 途中、星崎美沙さんと偶然会いました。学園トップの『治癒能力者』です。 それよりも僕は彼女の隣にいる、ライフルを担いだ男の人のほうに目が行きました。どこかで見たことのあるような顔ですが、まったく思い出せません。 「ひっどいなあ遠藤ちゃん! 俺だよ、体育委員長の・・・・・・」 「あー! あなたが体育委員長の討状之威さんですね!」 僕は本年度の役員一覧に載っていた、妙にチャラチャラしたロンゲを思い出しました。 逢洲等華さんが運転免許の写真でも撮っているかのような、とんでもない仏頂面をしていたのとは対照的に、この人は誰に向けているのかもわからない白い歯をニカッと見せていました。 恐らく特注と思われる、アホとしか言いようのないワインレッド一色の制服を着ています。こんなのが役員とは、学園は大丈夫なのでしょうか。 「遠藤くんは、こういった頭の軽い人は苦手そうよね」 頭が軽いとはなんだよぅ、と討状さんはふてくされます。美沙さんの言ったとおり、こういうタイプとは会話するのも疲れます。 それにしてもものすごい武装です。僕は銃器には全然詳しくありませんが、とんでもなく長いライフル銃を二丁持っていることはわかります。彼は狙撃手なのでしょうか? 「ま、戦いに出れば遠藤ちゃんもわかると思うよ。僕の強さ」 「そうね。この人に重火器持たせると、すごいことになるのよ?」 どうやら実力だけは美沙さんも一目置く学生のようです。 「遠藤くんのほうは準備万端? 覚悟は出来てる?」 僕はつい苦笑いをして、美沙さんに答えてしまいました。さすがの討状さんも呆れた様子で僕の顔をまじまじと見つめます。 「おいおーい。大丈夫なのかい? 北西部の指揮官さん?」 「まあまあ、無理もないわよ。この島にやってきて、数ヶ月足らずで指揮官なんて」 やれ、と言われたからにはやるしかないでしょう。僕もそのつもりです。学園が自信を持って選抜してくれたからにはやってやりますよ。くそったれ。 しかし、初めての実戦でまともな動きを期待されても困ります。やってみなければわからないのです。大丈夫なのかときかれても、自信を持って大丈夫ですとは言えないです。 「そういう場合はウソでも、大丈夫ですと言っておけばいいんだよ、遠藤ちゃん」 と、討状さんが僕に軽い口調で言いました。討状さんの言うこととはいえ、実際、そういうものなのかもしれません。 「自分の役割を一つ一つこなしていけば、何とかなるものよ。喫茶店で私が話したこと、よく思い出してね?」 討状さんが「え? 二人でお茶したの? どういう関係なの?」とニヤニヤしながら突っかかってきます。美沙さんは討状さんの茶化しを、笑顔でスルーしていました。 僕は美沙さんとの会話を思い起こします。 『治癒能力者』の僕には、戦場で傷ついた人を治す役割が自動的に与えられます。僕はその役割をきちんと果たしていけばいいのです。それができるかどうかが、今回の戦闘での重要なポイントとなります。 要は、いつもの訓練やラルヴァとの戦い通りにやればいいのです。これはパートナーのみくを欠いた戦いのようなものなのです。 「心配性の遠藤くんに、高等部二年生の有能なブレインを紹介するわ」 「え?」と、僕は美沙さんの顔を見上げます。 それはとてもありがたいことです。 大規模戦闘に慣れていない僕が小隊の指揮官なぞ、重圧で死んでしまいそうなところでした。高等部の人がサポートしてくれるのなら安心です。 「それは誰なんですか?」 「今、ちょうど来たところのようね。紹介するわ。・・・・・・舞華さん、こっちー!」 美沙さんが手を振った方向を見ると、僕よりもやや背の低い黒髪の女の子が立っていました。丁寧に前で組まれた両手に目が行きます。 「初めまして、遠藤さん。舞華風鈴と申します」 ぺこりと頭を下げた彼女に「よろしくね」と言おうとした瞬間、討状さんがビュンと俊敏な動きで前に出て、素早く彼女の手を取りました。 「やぁ、討状之威だよ舞華さん。頭良さそうでかわいいね、クラスはどこだい? 島のどこに住んでるんだい?」 「えぇ? やぁ、ちょっと、離してください!」 美沙さんはつかつかと討状さんの背後に近づくと、後頭部をゴチンと殴りました。 討状さんはその場でしゃがみこみ、殴られたところを押さえて悶絶しています。美沙さんは僕のほうを向くと、にっこり笑顔でこう言いました。 「このチャラ男はこういうところがあるからね。遠藤くんも、遠慮せずに殴っていいのよ?」 わかりました、覚えておきます。僕はそう答えました。 それから僕は舞華さんと一緒に車に乗り込み、持ち場である北西部へ向かいます。 「学園の北西部は、こういったラルヴァ強襲に備えてトーチカとなっています」 「トーチカ?」 「防御陣地のことです」 この双葉島はよく出来ていて、今回のような大規模戦闘に対応するためきちんと設計されています。僕もこの島にやってきてから数ヶ月経ちましたが、まったくそのようなことに気づきませんでした。 僕はこれから北西部にある陣地について、現場指揮を執ります。どうなることかと気が気でありませんでしたが、幸い、舞華風鈴さんはとても賢そうなので頼りにできそうです。 「遠藤さんがそんなに心配しなくても、大丈夫ですよ。私たち二年生の力を見くびらないでください」 「なら、安心なのかな・・・・・・?」 これから戦地に赴くというのに、どうしてこの子はこんなにも落ち着いているのだろう。 美沙さんみたくどっしりと構えています。迫り来る恐怖や絶望との全面戦争を控えているようには見えません。さっきからあわあわしている僕が、なんだかマヌケです。 「へへ・・・・・・。数ヶ月前まで普通の暮らしをしていたのが、どうしてこんなことに」 「遠藤さんは・・・・・・そうでしたね。大学部から双葉島にいらっしゃったんですよね」 「うん。異能者とかラルヴァとか、まったく関係のない世界にいた」 「私も初めは、ラルヴァの存在なんて信じられませんでしたもの。遭遇することなんてないんじゃないかな、なんて思ってた」 「舞華さんが?」 「うん。日ごろの訓練はきちんと受けてたんだけど、実際に遭遇するまでは、どこか半信半疑だったわ」 「あんな化け物、常識から考えればありえないもんね」 「だから、あの人に怒られたのを私は今でも覚えてる」 舞華さんは目線を落として、昔を懐かしむような、含みのある笑顔をしてこう言いました。 『本当に命を賭けることになる戦場に立つ事になる、という意識の薄い者達とは肩を並べられない』 ドキッとしてしまいました。 さっきからこうして物怖じをしている僕が、怒られたようなきがしたから。 舞華さんもそういう過去があったんだなと思いました。彼女を叱ったのが誰なのかということは、きくだけ野暮というものでしょう。 やがて、車は北西部にある防衛陣地に到着しました。 僕らは大きな建物に入りました。北西地区ゲート・中央建物です。 北西地区は、まず化け物の侵入を防ぐ高い壁が目に付きます。ラルヴァどもと戦う高等部の生徒たちは、自分の装備の点検をしたり、準備運動をしたり、チームを組む人たちは事前の打ち合わせをしていたりと、それぞれ思い思いのひと時を過ごしています。 あともう数分も経ったら、ここに大勢の恐ろしいラルヴァたちが押し寄せてくるのです。火蓋は切って落とされ、ここ、最前線は戦火に包まれるのです。 「司令室」ではすでにたくさんの教員や一般生徒たちが配置に付き、通信機器を調整したり、作戦内容の再確認をしたりしていました。僕が入室すると、 「大学部・遠藤指揮官! 歓迎する!」 などと教員から大仰に言われてしまいました。 舞華さんは専用の電動車椅子に座ります。コンソール類の装備された、指揮官にふさわしい特製の大型車椅子です。 いよいよ、戦争が始まっちゃうんだなあ。 僕がぽつりと呟くと、舞華さんがこう言いました。 「でも、これが現実なんです」 「だよね。そろそろ僕も、ようやくのことで受け入れつつあるよ」 「それならよかった」 時計がちょうど22時の針を指したところです。時間まであと十五分。 《『ラルヴァ』と思しき群集の双葉地北西・北東区画より上陸を確認、総員第一級戦闘配置!》 腕輪型の通信機から聞こえる無線が、強い語気でそう言いました。 どんなに強気になっても、このずっしり圧し掛かってくるような、物々しいぴりぴりとした雰囲気にだけは、どうしても馴染むことはできません。 さあ、敵軍はいよいよ島に上陸してきました。今更、尻尾巻いて逃げ出すわけにはいきません。僕らとラルヴァとの戦いは始まったのです。 そんなとき、舞華さんは「歓迎しますよ」と言いました。 それは双葉島に侵攻してきたラルヴァどもに対して、呟かれたものでしょうか? 僕はその言葉の意味がわからなかったので、舞華さんのほうを向きます。 「ようこそ、遠藤さん。この底なしにイカれた世界へ」 賢そうな彼女らしくない、おどけた笑顔を僕に見せてくれました。 7 「22時00分49秒」 「来た・・・・・・。来たわ! とても多い! 多すぎる!」 「え? わかるんだ、舞華さん?」 「私の能力は大気流動で外界を認識することです」 僕は支給されたスターライトスコープ(暗視スコープですね)を手に取り、死んだように静かになった夜の街を覗きます。 僕の顔が真っ青になって、司令室がざわっとなったのと同時でした。 「どこの誰なのかしらね。攻めてくるラルヴァは100体で間違いないって言ってたの」 そう舞華さんが毒づいたのです。 「本当だ! 多い、多すぎるよ!」と、僕も大声で叫んでいました。 確かに歴史学部の教員たちは『100体』と言っていました。間違いないとまで断言していました。それなのに何でしょう。この数百体はくだらない、ラルヴァの大勢力は・・・・・・? 「敵軍は北西地区から600メートルの地点を進行中。姿かたちは人間っぽいので、デミヒューマンでしょう」 すらすらと舞華さんが敵軍の情報を述べるたび、司令室の教員はあわただしく動きました。殴り書きで記録する者、特定箇所へ電報を飛ばす者、通信機で直接学生たちに情報を伝える者。 「ふふふ、それにしても何よこの、あまりにも統率のとれたラルヴァたち・・・・・・?」 さすがの舞華さんも額に汗を滲ませて、苦笑いを浮かべています。 素人の僕にも、これから攻めてくる連中がいつものラルヴァとは比べ物にならないぐらい強くて、恐ろしいというのは理解できました。 双眼鏡で見て、慄然としました。奴らは数え切れないぐらいの大勢で進軍してきたのです。しかも、きれいな陣形を組んでいっせいに押し寄せてきます。 まるで一国の軍隊を相手にしているようです。ここまで知能の高くて大規模なラルヴァの攻め込みは、初めて見ました。単なる化け物ってレベルじゃないです。人類の脅威そのものです。 「とりあえず、これからどうすればいいの!」 「落ち着いて遠藤さん。作戦は『専守防衛』です。何としてでも彼らの侵入を阻止することです!」 「ここで食い止めろってことだね!」 僕はマイクに口を近づけました。 ここまできたらやってやるよ! 徹底的にやってやるよ! そんな強い気持ちで放送のスイッチをバチンと入れます。 「北西部の指揮を担当します、大学部の遠藤雅です!」 威勢よく、堂々と高等部二年生の生徒たちに話します。この司令室から指示を飛ばそうというわけです。うむ、なかなか指揮官っぽい仕事だぞ! 「ラルヴァの群集はあと500メートルにまで迫ってきています! 怪我は全て僕が治します! ここは総員、死力を尽くして何としてでも食い止めま・・・・・・」 と、力強くノリノリでしゃべっていたそのときでした。 ズドドドドドドドドドドドドと、とんでもない爆発音が炸裂したのです。 「ぎゃああああああ! 何? 何が起こったの舞華さぁん!」 マイクのスイッチが入っているのもすっかり忘れて、僕はパニックになりながら舞華さんのほうを向きました。彼女も驚いた様子で車椅子から身を乗り出し、司令室の窓から表を見ています。 ラルヴァの攻め込んできている地点が、めらめらと一面に真っ赤に燃えているのです。舞華さんは目を瞑り、連中の動きを感じ取ろうとします。 「進軍してくるラルヴァの群集に、いきなり攻撃が加えられたようね。空中から絨毯爆撃でも敢行されたかのような、痛烈な先制攻撃よ。いったい誰がこんなことを・・・・・・」 「過激な生徒もいるもんですね・・・・・・」と、僕らはあっけにとられていました。 目の覚めるような絨毯爆撃の直後、ついにここ、外郭施設の投光器の火が点ります。 強烈なライトが照らし出したのは、焼死した死骸を蹴散らすように突撃してくる、怒り狂ったラルヴァたちの光景でした。ギャーとかキシャーとかいう形容しがたい絶叫が、司令室にも届いています。うわぁ、連中すっげえ怒ってるよ・・・・・・。 「さあ北西地区、戦闘開始よ! 私たち高等部二年生の力を見せてやりましょう!」 舞華さんが声を張り上げて生徒たちを鼓舞します。僕なんかよりもよっぽどサマになってます。舞華さんがいれば僕、別にいらないんじゃね? そして、双葉学園を非常事態にまで陥れた、謎の異形の姿が明るみになります。 シルエットは人間にそっくりです。生意気にもきれいな陣形まで組んで突っ込んできたほどです、知能は半端なく高いと思われます。カテゴリー・デミヒューマンと断言してよいでしょう。 しかし、ありえない皮膚の色をしています。体全体が緑色をしているのです。 顔がまた禍々しく恐ろしいもので、クチバシなんかが付いています。 自然発生した種というよりも、「人間」の何かこう、いじっちゃいけない箇所をいじってしまった結果生まれちゃったとんでもない生物兵器って感じがします。ええ、大昔に流行したホラーゲームに出てくるクリーチャーのような感じです。この想像が真実だとしたら、この現代日本は「倫理」の二文字なんて死んでいるようなもんです。 「そう、そんなに気持ち悪い顔をしているの」 と舞華さんが言いました。彼女は生まれつき目が悪いようなので、僕が伝えてあげました。 「全然聞いたことのないラルヴァね。緑人間とでも仮に呼びましょうか」 「何だろう、こいつらから感じられる恐怖は・・・・・・。薄気味悪いってレベルじゃない」 まず、知能がやたら高すぎる。ラルヴァというよりも、人間を兵器にしたものを相手にしているような気分です。 そして冷や汗の止まらない僕は、なんとなく舞華さんに言います。 「こいつら絶対に双葉学園に好きで攻め込んでるわけじゃないだろ。こんな戦闘に特化したとんでもないものを、誰かが学園に仕向けてるんだろ・・・・・・?」 「もしもそうだとしたら、恐ろしい話ね・・・・・・!」 舞華さんがそう言ったときには、もう双眼鏡など使わなくとも十分その姿がうかがえるところまで、奴らは接近していました。 「とうとう来やがった! 門に到達する!」 僕は叫びます。ついに、五体のラルヴァが北西部の防衛拠点に到達しました。 高等部の生徒たちが身構えて、連中を迎え撃とうとしたその瞬間。 ズドンと、真っ白で巨大な壁が構築されたのです! 門を塞いでしまいました! この防衛拠点を覆う壁よりも、ずっとずっと高くて分厚くて、強固な壁です! 「何だあれーーーーーー!」 僕はラルヴァなんかよりもそっちに驚愕していました。 どんな大津波も浸入を許さない、圧倒的な堤防です。あの白い壁は何だ? 誰が展開した? 「あれは氷・・・・・・? なるほど、わかったわ! 私のクラスメート『如月千鶴』さんです!」 二年B組、如月千鶴。舞華さんによれば、氷を操る異能者だそうです。 緑人間が門を突破しようとした瞬間、如月さんが「氷の壁」を構築したのです。真っ直ぐ突っ込んできたラルヴァたちは、氷の中に閉じ込められてしまったようです。 「前に訓練で見たことがあります。如月さんの作る氷の壁は、触れるとダメージを受けるの」 「HAHAHA、チートクラスだねぇ」 堂々と拠点に君臨する、真っ白に照らし出された氷の壁を唖然として見つめていました。すげー、高等部の生徒、ホントすげー・・・・・・。 「じゃあ、連中どうしようもないじゃないか?」 実際、強襲に身構えていた生徒たちですら、この壁のために役割を失って拍子抜けをしているようです。敵は壁によって侵入できない。壁を殴ったらダメージを受けてしまう。それでも強引に越えてくるようなことがあったら、今度は生徒たちの異能力が火を噴くことでしょう。 肩の力がすっと抜けました。如月さんとやらのおかげで、少なくとも北西部の戦いは楽な展開を見せそうです。戦場にいる彼らも棒立ちになっていて、笑顔すら見られます。 しかし舞華さんが立ち上がり、血相を変えてこう叫びました。 「だめ! みんな油断しちゃだめぇ! 上を見てぇ!」 僕ははっとして上空に目を移します。そして血の気が引いていきました。 上から来やがるぞという怒鳴り声で、ようやく現場も異変に気づいたようです。ぐいっとライトが夜空に向けられます。 生徒たちが見たものは、コウモリの翼を生やしたラルヴァの飛行編隊でした。 「空からも攻めてくるのかよ!」 瞠目して声を荒げました。まずい。敵はみんなの考えている以上に危険です。 よく目を凝らすと、飛行ラルヴァは何かを抱えていました。僕は慌てて双眼鏡を取り、それが何であるのかを調べます。 ・・・・・・たまらず両手の力が抜けて、僕は双眼鏡を落としてしまいました。 「遠藤さん、何があったの?」 「あいつら、緑人間を抱えてる・・・・・・」 それを聞いた舞華さんが、一瞬呆けたような表情を見せました。 「壁を越えられる! 敵が攻め込んでくる! みんな、警戒しろぉおおお!」 僕はマイク越しに、必死になって高等部のみんなに怒鳴りました。 正直、連中を見くびっていました。侮っていました。 コウモリラルヴァは緑ラルヴァを運んできては、ここの防衛拠点に投下していきました。何てことでしょう、軍人顔負けの立派な人海戦術です。 かくして、緑ラルヴァたちと高等部生とのバトルは始まりました。 爪の攻撃を避けながら持ち前の長剣で切り裂いたり、素手でぶん殴って潰したり。 おのおのがおのおののスタイルで、回転寿司のように次々と投入されてくるラルヴァを倒していきます。武器庫で武器をあさってきた一般人生徒――異能を持たない者たちは、思う存分対空射撃をしています。 なかでも、一人の異能者が圧巻でした。 その人は筋肉モリモリのガチムチな男子でした。緑人間をサンドバッグか何かと思っているのか、物騒な武器で何匹も殴り殺してしまいます。北西部の生徒のなかで、下手したら一番強いんじゃないかと思ってしまうぐらい、圧倒的な戦いぶりを周りに見せ付けています。 「さっきから緑人間をちぎっては投げてちぎっては投げてるあの人、誰か知ってる・・・・・・?」 「クラスメートの、三浦孝和くんです・・・・・・」 と、舞華さんは少々言いにくそうにして答えました。 三浦孝和。どこかで聞いた名前です。 うーんと首を捻りながら、その名を思い出そうとしていたときでした。司令室のドアが開いたのです。 「二年生じゃちょいと名の知れた女ったらしだな。ついこの前も女子更衣室に飛び込んで、職員室から呼び出しの放送がかかったぐらいだ」 そう、突如としてこの場に現れた、高等部の男子生徒が言いました。 「あれ、君は誰だい?」と僕がきくと、舞華さんがにっこりとしながら紹介してくれました。 「『唐橋悠斗』くん。私の指示で、これからはこの部屋に待機してもらうことにしたの」 「特に戦わなくていいのなら、それにこしたことはない。畜生、この学園に来てしまったせいで、こんな戦争まがいの大騒動に巻き込まれるとはな・・・・・・」 「こら、そんなこと言わないの! 唐橋くん!」 舞華さんが彼をたしなめます。しかし僕は彼に近づいて、同情の眼差しを向けました。 「まったくだ・・・・・・。異能者やらラルヴァやら、この学園に来てからよくわからないことだらけだよ。もういい加減お家に帰って寝たいよ・・・・・・!」 「あんたも平凡あがりの異能者か。あんたとは話がわかるな。まあ、ここは大人しく巻き込まれておくしかねえよ。クソ、いったい何なんだよ・・・・・・!」 やれやれ、と舞華さんがため息をついたのが聞えます。 それにしても唐橋くんとは何者なのだろう。 この司令室に彼を配置した、舞華さんの狙いは何だろう。 そのとき、ガラスが何度も割れる音が司令室に聞えてきました。僕は「何が起こったの!」と叫びながら、おろおろ慌てふためきます。 「あの空を飛んでるヤツが、歩兵ラルヴァを建物めがけて投下しているんだ」 「どうやらこの建物が狙いのようですね」 舞華さんは眼鏡をかちゃりと動かします。つまり、緑人間を直接この建物に攻め込ませて、北西部を制圧しにきているということなのでしょう。 「誰か戦える生徒はこの建物にいるの?」 「ええ、数人が防衛に回っています。今ちょうど、建物内でも戦闘が始まりましたね」 と、舞華さんが感覚を研ぎ澄ませながら言いました。彼女はなおも僕らに言います。 「連中は絶対にこの司令室には近づくことはできません。対策を打ってありますので」 「ああ、なるほど。それで俺がこの部屋に呼ばれたってわけか」 僕には何の話かまったく見えません。とにかく、ここにいるぶんには安全だということでしょう。 8 「22時43分」 ジジジ、というノイズが聞えました。僕らが着けている腕輪型通信機からでした。 「北西地区司令室、聞えますか?」 「はい、司令室です。どうぞ」 現場から無線が流れてきました。インカムを装着した教員たちが、真剣な表情で戦場からの声に応答します。 「一部地域でけが人が数名出ています。遠藤さんの『治癒』を要求します」 僕の心臓が跳ねました。とうとう、この時が来てしまったか・・・・・・。 如月さんの構築した『氷壁』は絶大な効果をもたらしています。もしもこの壁がなかったら、倍以上の数のラルヴァに攻められていたところでしょう。 しかしいたる箇所で、コウモリラルヴァによって投下された個体との戦闘が発生しています。緑人間そのものは並みではない戦闘力を持っていますので、ところどころ苦戦している場所があるようなのです。 書類を教員から受け取った舞華さんは、口頭で僕にこう伝えました。 「遠藤さん、出番です! 怪我人を治療してきてください! 現場はここからやや南下したところです!」 「わかったよ。やるよ。何人でも回復させてやるよ!」 階下では、ラルヴァの侵入を防ぐための激しい戦いが行われています。 みくがこの場にいない今、戦闘においては、僕は無力も同然です。緑人間に遭遇しないことを祈りながら、僕は司令室を後にしました。 建物の一室にて、一人の少女が緑人間に囲まれていました。 「およよ」 やたら背の高いその子はでっかいバスケットを抱えて、立ち尽くしていました。 「何か囲まれちゃったねー、シロー」 「キュルキュー?」 彼女の足元にいる、手足の生えた白い饅頭(?)が鳴いて応えます。 二人は薄暗い部屋のど真ん中にいます。その周りを、緑ラルヴァが二十匹ぐらい囲んでいます。極上に絶望的な状況下です。 緑ラルヴァの一匹が、太くて鋭い爪を露出させて彼女に切りかかりました。 襲われた少女はバスケットを落としてしまいました。ガタンとバスケットのふたが吹っ飛びます。中から溢れてきたのは、白いお米・・・・・・たくさんのおにぎりでした。 ぐちゃぐちゃに粉々に散らかされたおにぎりを、金髪の少女はがたがた震えながら見下ろしています。 「わたしの・・・・・・」 「キュー・・・・・・」 「わたしのぉ・・・・・・!」 「キュキュキュー・・・・・・!」 「ごはぁぁぁぁぁぁんんん・・・・・・・・・・・・!」 「キューーーーーー!」 両膝両手の順に床に崩れ落ち、少女は小刻みに震えます。とても悲しそうです。 哀れな少女をよそに、緑人間たちは機嫌がいいのか、気味の悪い鳴き声を出して、歌って、彼女を嘲り笑っています。 そして、少女は泣くのを止めました。 「いくよ・・・・・・」 「・・・・・・キュ」 少女がゆらりと立ち上がります。ラルヴァたちは一斉に黙りました。空気の変化を敏感に察知したのでしょう。 部屋に降りてきた一瞬の沈黙ののち、死刑宣告はなされました。 「我、命ず」 「キュ・・・・・・」 「殲 滅 せ よ !」 「キュオ・・・・・・・・・・・・グォォォオオオオオオオオオオオオ!」 まず少女に一番近い位置で囲んでいた緑人間たちが、ボスンと爆発しました。頭部が風船玉のようにはじけ飛んだのです。 そして白い饅頭は咆哮を終えると、とんでもない生命体に変化していました。屈強な体、人間の肉体などあっさり裂いてしまえそうな爪、牙。 どっしどっしと、緑人間たちへ俊敏に詰め寄り、集団をまるごと大きな手でなぎ払いました。敵は爪によって一気にバラバラに切り裂かれながら、汚い血や内臓を部屋のあちらこちらに撒き散らしていきます。 その強さを恐れた緑人間たちが、今度は無力そうな少女を襲います。残された全員が、四方八方から飛び掛ります。 しかし、それで全てが終わってしまいました。 緑人間はみんな少女に触れることすらできず、空中でボンと散ってしまいました。ぼたぼたと肉塊が彼女の周りに降り注ぎ、汚い肉の輪を描いていきます。 そんな想像を絶する光景に、僕は道すがら出会ってしまったのです。 「この学園の生徒って、ほんととんでもないのばかりだ・・・・・・」 そうしてこっそり覗いていたとき、血塗れた少女と目が合ってしまいました。僕はもう何度目なのかもわからない、心臓が跳ねた音を聞きました。 少女は表現のしづらい、ものすごい目をしていました。キレイなはずの青い目が、どす黒い渦を巻いていたのです。 私のごはん・・・・・・、私のごはん・・・・・・! 瞳がそう慟哭を上げています。 悲しんでいる人を放っておけません。僕は(恐る恐る)部屋に入りました。 「・・・・・・おにぎり、もったいないよね」 僕はそう言って彼女に近づきます。少女は目をぱちぱちさせて、散らばったお米に両手をかざしている僕を見下ろしていました。 このおにぎりが、もの姿を取り戻せますように。ほかほかでふっくら作りたてのおにぎりに、その姿を取り戻せますように・・・・・・。 何かマヌケなことを必死こいて念じていますが、僕はいたって真面目です。真剣です。両腕が温かくなります。その温もりを、百パーセントコシヒカリに分け与えるようにして、僕は『治癒』を行使します。 バスケットごと、ぴかっと眩しく光りました。薄暗い部屋が白い光に包まれます。 「わあ・・・・・・」 彼女は瞳をきらきらさせました。当然でしょう、おにぎりが全部もとにもどって、バスケットに詰まっているのだから。 「私の・・・・・・私のごはん!」 「キュキュキューーーー!」 バスケットに抱きつき、いつのまにか白饅頭に戻っていたペット(?)と共に喜んでいます。 バスケットにたぷんと乗っかった、でっかいおっぱい。 よかった。本当によかった――。 僕はそれを優しい紳士の微笑で見つめてから、本来の目的のために戦線へと躍り出ていきました。おっぱいを見てものすごい元気が出ました。緑ラルヴァ程度なら、今の僕なら爽やかに殴って倒せそうです。 こういうことにいちいち『治癒』を使ってしまうあたり、僕は美沙さんと大違いのバカヒーラーです・・・・・・。 ほんの少しだけ、体が右にふらついてしまいました。 いつもよりも力の消費が激しかったようだと、僕はそのとき思い込んでいました。 トップに戻る 作品保管庫に戻る
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ラノで読む 1/ 「く……くそっ!」 少年は逃げていた。夜の公園をただひたすらに走る。 少年は怯えていた。こんなはずではなかったのだ。憧れていた力をやっと手に入れた、なのに……それを上回る圧倒的な力に叩き伏せられ、そして追われている。 捕まれば終わりだ。終わってしまう。それを少年は本能で察していた。弱者として生きてきた本能がそう囁いている。唯一、自分が勝者となれた仮想世界の力でさえ、今夜をもって完璧に折れてしまった。 足がもつれる。少年は倒れる。 「ひ、う、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」 目の前に立つ人影。それを前に少年は絶望の慟哭をあげる。 光が点る。どこまでも冷たい輝きが、少年を襲った。 Avatar the Abyss 後編 生命 2/ 「また被害者が出たの!?」 風紀委員会の部屋で、報告を受けた少女……藍空翼(あいそら・たすく)が声をあげる。まるで小学生のようだが、学年章からは高等部の二年生だという事がわかる。 もみあげの長い、ショートカットの髪を振り回して、ああああもう、と翼は頭を抱えた。 「何なのよもう、これで六人目よぉ~……」 「今回もまた、過度の精神衰弱が見られますね」 「話は……やっぱり駄目?」 「はい。昏睡状態で聴取できる状態じゃありません」 風紀委員達が、渡された調書に目を通す。 「被害者の共通項……ゴッドアヴァタールオンラインのプレイヤー、かぁ」 「ネットゲームしか手がかりがないからって、うちに回してこなくてもいいんですがね。微妙に専門外です」 メガネの風紀委員が言う。 そう、此処は風紀委員会は風紀委員会でも、特別な部署である。 風紀委員会電脳班。通称、ネット風紀委員。さらに略すとネッ風。 双葉学園に向けて行われるサイバー攻撃を一手に引き受け、情報を守る電脳防衛隊! ……ただし、双葉学園はセキュリティがしっかりしているので、彼女達の仕事は殆ど無かったりするのが現状だった。エロ画像の検閲や、双葉地区内イントラネットの管理運営程度である。ある意味、風紀委員会の窓際族と言ってもいいだろう。 そんな電脳班に、珍しく事件が回された。 一般の生徒達が次々と昏睡状態に陥っている、という事件だった。その共通項は、とあるネットゲームのプレイヤーである、ということ。そういう訳で、専門家であるネット風紀委員こと電脳班にこの事件が任されたのである。 「体のいいたらい回しだよねこれ……」 「管理会社に問いただすのも難しいですからね。異能関係の事件は第一級秘匿事項、本土の一般の人たちには話せませんし」 「そもそもゲームプレイヤーってだけでは無理でしょうね」 風紀委員たちが話し合う。しかし中々に難しい問題だった。その時…… 「ここはやっぱり我々の流儀でやるしかないわね!」 翼が立ち上がる。 「流儀って、まさか……」 「そう、ハッキングよ!」 「違法ですそれ班長ぉ!」 ビシっと指をさす翼に、風紀委員達が大声で叫んだ。 3/ 昼休みになって、ようやく那岐原新(なぎはら・あらた)は登校した。 朝までゲームをして、昼に起床したからだ。睡眠時間をちゃんととっているあたり、人として間違ってない。と、本人は思っている。 『どう見ても間違ってるだろ。学生の間からそんな生活……』 彼の「想像上の友達(イマジナリィ・フレンド)」であるベルがため息をつく。想像上の友達とは、本人にしか見えない、空想によって作られた友人である。そう書くと妄想狂の産物のように思えるが、心理学等でもれっきとして認められている、幼年時代の心理的防衛機構の一面である。 だが、高校生になってもそれが消えずに未だに存在し続けるどころか、完璧な人格を得るまでに育ってしまう例は稀だ。新が勇気を振り絞り恥を忍んで医者に聞いたところ、それは異能ではないか、という話だった。なるほど、それならば確かに納得できる。 だが他人や物質になにも干渉できず、本人からも触れもしない。そんな空想像を保つ異能など、まず間違いなく全国最弱クラスだろう。だから新はやはりというべきか、誰にもこの事を言ってはいない。 (まあ、出席日数は足りてるし) 新はちゃんと計算している。ゲームによる遅刻や欠席を繰り返しても、出席日数は最低限足りるようにペース配分は欠かしていないのだ。 『そのマメさを勉強に役立てればいいのに……』 (いいんだよ。学校の勉強なんて大人になったら役に立たない、だけどネトゲは人とのコミニュケーションツールだ。そこでの経験は将来生きるのさ) 心の中でベルにそう返答する新。まさに駄目人間の理論であった。 そう心の中で会話を繰り広げながら歩いていると、見知った顔と出会う。と言ってもリアルで顔をあわせたことは一度しか無い上に、会話したのもつい先日のことである。 名前をルキオラ。ただしゲームの中の名前であり、本名が篝乃宮蛍であることは、新は知らない。 「あ、やあ」 あまり他人と話したくないが、ゲーム内の友人である。無視するわけにもいかないので、ぎこちなく手を上げて会釈する。 「……」 しかし蛍は、新を一瞥し、そのまま過ぎ去った。 「……」 『……』 上げた手が妙にむなしかった。 『……無視されたな』 「ああ。まあ、オンとオフは別だしな」 ネットとリアルでは分けて考える人は多い。彼女もまたそのタイプの人間なのだろう、と新は思うことにした。ほかならぬ自分もそうである。 それにこの程度の事で凹むような新ではない。ゲーム内で無視されたら結構凹むではあろうが。 気を取り直して歩いていると、今度は新のほうが声をかけられた。 見知らぬ少年に。 「お前、面白い仮想神格(アヴァター)を持ってるな」 「え?」 いきなりの脈略の無い言葉に、新は足を止める。 その少年は、血走り窪んだ目で、新を見ていた。 「ええと、何? アヴァターって……」 ゲームの話か。しかしいきなり何だろうか。 新が困惑していると、少年はさらに続ける。 「何言ってるんだよ、すぐそばにかわいい子連れてるだろ」 『え……うそ!? こいつ、私が見えてるのか!?』 その言葉に、ベルが驚愕する。それそうだ、在り得ない。なぜなら彼女は、新の想像上の存在……つまり、言い換えるなら新の頭の中にしか存在しないのだ。 「なんだあんた、他の同類に会った事ないのか?」 「同……類?」 困惑する新とベルに、少年はさもおかしそうに言う。 「こいよ。説明してやる」 その少年に従って、新は校舎裏へとやってくる。 「自己紹介がまだだったな。俺は東堂克彦」 「あんた……こいつが見えるのか」 「ああ。普通の奴らには見えないだろうな。特にお前のは、なんってーか、薄い」 『薄いってどういうことだよ!』 叫ぶベルを見て、克彦は笑う。 「……反対に自我だけは濃そうだけどな、面白い。そいつ、俺にくれよ」 『はあ!? 何を言っているんだお前!』 ベルが大声をあげる。それを新は制止して言う。 「いや、無理だろうそれ。「想像上の友達」を見ることが出来るってのはびっくりしたけどさ、でもこういうのは他人に譲ったりできるものでもなけりゃ、するもんでもないだろ」 新の言葉に、 「は……? くく、あっはははははは!!」 克彦は大爆笑した。 『な、何だこいつ……何か、おかしい。すごく……不吉だ』 その言葉に新も同意する。だが、逃げようにも何故か動けない。 「なに、こっちにもレベル差ァあるって聞いたけどよぉ……そうなわけ? 雑魚か、お前。まあいいや、だったら説明する義理もないか」 そう笑いながら、克彦はゲーム機を取り出す。小型のポータブル機だ。そこに収まっているソフトは、アバタールオンラインのポータブル用ソフト。 そして、一枚のカードを取り出す。メモリーカードだ。 「それは……!」 新も知っている、拾ったあのカードである。 克彦は薄い笑いを浮かべながら、ゲーム機にメモリーカードをセットする。 『ミセリゴルテ』 電子音声が響く。 そして――。 「な……っ!?」 現れる巨大な映像。空中に投影されたそれは、半透明の立体映像のようでありながら、強固なリアリティを持っていた。 そして、それは……ベルに似ていた。外見ではない。何といえばいいだろうか。例えるなら存在感。 自分の世界にしか存在しない……そう思わせる、現実と剥離した視覚像。 それが現実を侵食し、現出している! 巨大な処刑剣。斬首剣。それが克彦の手に収まる。 「これが俺のアヴァターだ。さあ……大人しく渡してもらおうか、お前のアヴァターを」 「人の話聞けよ、渡すなんて出来ないって! ていうかなんだよこれ!?」 『新、逃げないとっ!』 ベルが叫ぶ。新はあわてて走る。 「逃がすかよっ!」 克彦が剣を振る。新の背後にあった植木の枝が切断された。 「まて、なんで想像上の友達(それ)が物理攻撃できるんだよ!」 『私に言われてもわからない! 私は出来ないのに!?』 「すまん確かにそうだった!」 想像上の友達はあくまでも想像の上であり、心理学的な解釈を付け加えても、人工的に作られた仮想人格に過ぎない。本人が無意識的に頭にいれたことや、忘れ去った記憶を知っていたことはありえるが、知らない事を知るはずがないのだ。 「それが出来るんだよ。仮想現実(バーチャル)が現実(リアル)を侵食する……最高だろォ? ゲームの世界で神々だった俺は、こうやって現実でも神に、異能者になれる。ああ、あいつらの言ったとおりだ。だが足りない、これだけじゃ足りない。もっともっと俺は強くならなきゃいけない。だから……お前のアヴァターもよこせよォォオ!!」 そして、剣が輝く。その光を浴びたベルの様子がおかしくなる。 『あ、あ……な、なにこれ……!?』 「どうした、ベル!」 がちがちと震えるベル。それはまるで恐怖に苛まされて絶望に飲まれているかのように。 「ミセリゴルテの力……精神ステータス異常攻撃だ。くくく、こんなのまでちゃんと再現できるんだからすげぇよなァ。まだ人間には効かねぇけど、それもすぐだ。強くなれば、もっともっとアヴァターを集めれば、俺はレベルアップするんだ。そして……」 『ああああああああああああああああああああああああああ!!』 ベルが絶叫する。 「おい、ベル、おい!!」 新は状況に全くついていけない。いきなりゲームのアヴァターを呼び出す、ベルが見える男、それが襲い掛かってくる。そしてベルは完全に混乱、いや狂乱している。 なにがなんだかまったくわからない。 わからないまま―― 「そこまでっ!!」 拡声器で増幅された声が響き、電磁ネットが放たれる。 「んなあ……っ!?」 全身の痺れが克彦を襲う。しかしスタンガンのような、強力な電流ではない。故に克彦は気絶することはなかった。 だが…… 「っ、ミセリゴルテが……ッ!?」 強固な実体を持っていた映像が解れる。歪む。砂嵐のようなノイズが走り、リアリティを保てなくなる。 「やはり、強力な電磁波を浴びせれば、ゲーム機やそのカードは機能停止を起こす……精密電子機器の弱点ですね」 草むらから現れる生徒達。その腕には風紀委員の腕章がつけられている。 「我々は双葉学園風紀委員会電脳班、通称「ネット風紀委員」! 連続生徒襲撃犯に告ぐ、神妙にお縄につきなさいっ!!」 その中で一番小さい、えらそうな女の子が指をさす。双葉学園風紀委員会電脳班班長、藍空翼である。 「……え?」 さらに事態についていけない新だった。 「糞、なんで風紀が……! ちっ、ちくしょう、俺のアヴァターの力が……! 弱く、消える……!!」 もがく克彦。 「班長、警告は通じないようですね。電磁ネットの出力をあげて……」 メガネの風紀委員が言う。だが、翼はその言葉を最後まで聞かずに動く。 「班長? ……ちょっと!」 メガネの風紀委員が上ずった声をあげる。 翼が取り出したのは、妙な形のハンマーだった。巨大なサイズのスタンガン、大きさにして1メートルはある、そのまま巨大になったスタンガンに大きな柄がついてハンマーの形になっていた。そのハンマーヘッドのスタンガン電極部分がバチバチと放電する。 「ちょ、おま、それ!」 「やめて班長ー! 証拠がぁあ!!」 風紀委員たちが制止する。だが遅い。いや、たとえその制止が早くても、彼女は最初から徹頭徹尾、そのスゥイングを止める気はなかった。 問 答 無 用 !! 全力フルスイングで叩き込む。 「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」 炸裂する。 電磁ネットよりさらに強力な電流・電磁波を叩き込み、電子機器を完全に破壊する必殺武器、超電磁スタンガンハンマー。 サイバー犯罪者の目の前で彼らの大事な大事なデータを物理的・電子的に完璧に破壊する事を目的に造られた超風紀デバイスである。 「成敗っ!!」 ミセリゴルテが爆発する。 そして普通に強力な電流なので、克彦もまたその直撃をくらい、見事なまでに気絶していた。 翼が勝ち誇るその足元で克彦のゲーム機が地面に落ち、ブスブスと黒い煙を放つ。完璧に破壊され二度と使えないだろう。 そしてそのゲーム機から、メモリーカードが落ち、砕けた。 4/ 「なんてこと、犯人を捕まえたって言うのに、また同じパターンで意識不明……」 「いやそれ班長のせいだから!!」 風紀委員達が一斉に叫ぶ。 倒れた克彦を捕らえ収容したものの、意識は戻らず、ゲーム機やカードも完全に壊れていた。 「なんで!? ああしなきゃ被害出てたかもしれないのよ!」 「あの時点で意識はともかく戦闘力はほぼカットされてたと思うんですが」 メガネが突っ込みをいれるが、翼は無視した。 「何なの、これ」 そんな騒がしい状況を見て、新はつぶやく。 参考人として風紀委員たちに連れてこられたものの、新を無視して騒いで……いやコントを繰り広げていた。 「まあ、これが彼らの日常なんだろう」 扉の近くにいた新の背後から声がかかる。扉を開けて出てきたのは、白衣の青年だった。 「えと、あなたは……先生?」 「僕は教職員じゃないよ。言うなればゲストかな」 「あ、語来先生だ!」 翼がその姿を見て言う。 「だから僕は先生じゃない」 同じような応答を、各所で幾度となく繰り返してきた。彼の名は語来灰児、通称ラルヴァ博士と呼ばれる二十五歳の無職である。 「わざわざすみません、お呼び立てして」 「なんだ、君も呼ばれていたのか」 そしてさらに一人、また部屋にやってくる。 「どうも、稲生先生」 稲生賢児。双葉学園の異能研究室の教授である。 「今回、先生方をお呼びしたのは……」 「ああ、すでにもらった書類は読んだよ」 灰児が言う。 「彼もいるという事は……」 「はい。異能の観点と、ラルヴァの観点と、双方の視点からまずは調べようと思いまして、専門家を及び立てした次第です」 メガネが二人に説明する。 そうしてる時に、翼が新を見て、言った。 「ああ、あんたまだいたの? 帰っていいよ」 そのあまりの言い草に、流石の新もカチンときた。 「おい、なんだよその言い草」 「何だもなにも、もういいし」 「連れてきたのお前達だろ!」 「でもろくな情報もなかったし、開放してあげるって言ってんのよ。ていうかね、私、あんたみたいなニートオタって嫌いなの」 「なん……だと?」 「あんたみたいなののせいで、私達風紀委員電脳班も同類に見られてすごい迷惑なのよ!」 その大声に、風紀委員電脳班の部屋が一瞬、静かになる。 「私だってゲームとか大好き。だけど現実とゲームをごっちゃにするようなのが今回の事件とか起こして、みんなに迷惑かけてるの!」 「俺を一緒にするな! 俺だってリアルとバーチャルの区別はちゃんとつけてる! バーチャル重視で!」 「重視じゃだめでしょ!」 「誰が決めた!」 「私がよ!」 「うわなんだその超ゴーマン! これだから惨事のメスは!」 「傲慢でもいいわよ! そうでもなきゃ、誰かを守れない!」 「……っ」 新は、翼の目を見て言葉が止まる。 その瞳には、涙が浮かんでいた。 「なんか修羅場ってるねえ……」 それを見て、灰児が言う。そんな灰児に、メガネが言った。 「班長は、昔……といっても二年前ですが。ゲームで友達を失ったんです。自分がネトゲに友達を誘って、それでその友達が……ゲームが原因で家庭崩壊したんですよ」 「……それは、なんというか」 灰児も稲生も、言葉が継げなかった。 「しかも、因果なことに、その時のゲームもアヴァタールオンラインでした。だから班長はやる気を出してるんですよ、たらいまわしでしかないはずのこの案件に、ね。まったく、部下としては面倒この上ない。面倒は厭なので、早く解決しましょう」 「嫌だから適当にやる、んじゃないんだ」 「まさか。嫌な事はとっとと、かつ完膚なきまでに片付けて、楽しいことをのんびりと適当に長くやるのが人生の秘訣ですよ」 「子供に人生訓を語られるとは思わなかったなあ」 灰児が苦笑する。 「だな。ではとっとと研究をはじめようか」 稲生もまた苦笑しながら、ファイルを開いた。 「それでは気をとりなおして」 会議室でメガネが司会進行を行う。 「特別ゲストとして、ラルヴァ専門家の語来灰児氏と、稲生研究室の稲生先生を招かせていただきました」 拍手が起こる。 「では先生」 「うむ」 稲生が前に出る。 「噂話や現場の状況など、諸君らがネットで集めた情報をまとめた結果。今回の事件は、「一般人が異能の力を手に入れる」という噂話がその根本にある、という話しだった」 「はい。ですから稲生先生にお越しいただきました」 「だが、一般人が異能の力を簡単に手に入れる、というのは非常に難しく、そして在り得ないケースだ。今回は……」 スライドに映される、ゲーム機とカード。 「現場より押収されたこれらが、異能発現のアイテムではないか、という話。これもネットの情報と合致する。 だが、だ。異能を発現する、つまり所有者に能力を与えるアイテムというのは、原則的にやはり強い魂源力を持つ異能者でないと無理だ」 「確かに……そんな強力なアイテムを一般人が使えるのおかしいでしょ」 賛同の声があがる。 超科学の産物であるアイテムは、簡単なものなら普通の人間でも使える。だが強力なものであればあるほど、普通の人間に使用することは出来ない。持ち主の魂源力を使用するからだ。 「たとえば、班長の愛用のハンマー程度のレベルなら、普通の人でも持てます。でもこのカードはそれよりも遥かに高度な超科学の産物ということになる」 「だったらおかしいじゃない、ルール違反でしょ!」 「発想の逆転だ、藍空班長。これはね、所持した人間が使用しているんじゃない」 「え? どういうこと……?」 稲生は灰児に目配せする。そして灰児が一歩前に出る。 「ここからは僕が説明しよう。まず前提が大きく違っているんだ。 これは、一般人が異能の力を発現する事件ではない」 灰児は、強い口調で断言した。 「ラルヴァが人に……一般人にとりついているのさ」 5/ 風紀委員から追い出された新は、特にあてもなくただ歩いていた。 (なんだかなあ) 先ほどのちっちゃい風紀委員がどうにも気になった。というかむかついた。 気を取り直して、新は携帯電話を持って、話す。 「どうした、ベル。さっきから全然出てこないし……大丈夫か?」 しばらくして、新の心に声が響いてくる。 『……私は』 「どうした?」 『思い出したよ。いや、理解した、自覚したと言った方がいいのかな?』 「何を?」 『私が何者か。どこから来て、どこへ行くのか』 「なにを言ってるんだ。お前は、俺の作った想像上の友達で、俺の役立たずの異能で……」 『違う』 その言葉は、はっきりと、拒絶の意すら示していた。 『お前は特別じゃない。そんな力など持ってはいないんだ。 はっきり言おう。お前は、「想像上の友達を使う異能」を持っているわけじゃない。私(ラルヴァ)に取り憑かれたただの……一般人だ』 「異能者になったわけじゃ……ない?」 「そう。そのラルヴァの名前は、【アバター】と呼ばれる、カテゴリーエレメント。精神寄生の性質を持つラルヴァだ。一番似ているのは……そうだな、死出蛍が近い、かな。 それは人の精神にとり憑き、その精神の在り方を再現するといわれている。 ドッペルゲンガー現象と呼ばれるものの一部は、このアバターが原因だ。本人をこのラルヴァが再現し、作り上げる。その為に宿主の魂源力、生命力を吸い上げる。「ドッペルゲンガーを目撃したら死ぬ」というのは、このアバターに寄生され、生命を枯渇した末路だな。 だがそれは強力なそのアバターの固体に取り憑かれた場合の話であり、基本的にアバターはそこまでの強力な危険は無い。せいぜいが幻影を見せたり、軽い一時的な人格変化を起こす程度だ。少なくともアバター本体には、明確な意思や悪意は存在しない……というのが僕たちラルヴァ研究家の見解だ」 その説明を、稲生が引き継ぐ。 「だが、そこにこの超科学アイテムが関わると話が違う。これは半分近くは推測ではあるが、アバターを強化・増幅・進化させるためのアイテムだろう。ネットゲームのキャラクターのデータを反映し、アバターの性質を利用してそのゲームキャラクター、つまりアヴァターへとまさしく「化身」させる」 「アバターは本来は弱いものだ。魂源力の強い人間には寄生できない。自分の存在がかき消されるからね。また、感受性の豊かな子供にしか寄生できない。自分の存在が否定されるからね。そんな弱いラルヴァだが、このカード、このゲームを利用し、何者かがラルヴァを品種改良しようとしている……という事だろう。ゲームのプレイヤーを使って」 「そんな……ひどい」 「一般人を……実験体にだと!」 ざわざわと風紀委員達のざわめきが会議室に響く。 「先ほど追い出された彼だが、彼に話を聞いた限りでは、東堂克彦は人を襲っていた。アヴァターを奪う、と言いながら。それはこのカードを奪うこともあるのだろうが、寄生したアヴァターを無理やり引き剥がすということも意味する。精神に寄生しているものを破壊したり引き剥がせば精神ショックは計り知れない」 「治るんですか、灰児さん」 「ああ、簡単に言えば荒療治で病巣を無理やり取り除くようなものだから、以降被害者達が衰弱し、死亡するといったことは無い。休んで回復に努めればよくなるだろう」 その言葉に、会議室の空気は緩和される。だが…… 「しかし、問題は未だそのカードを所持しているだろう子供たちだ。現在、被害者は彼を除いて六人。先ほどの彼、那岐原君はカードを所持していなかった。そして克彦君が所持していたカードは、二枚、だ。どういうことか判るだろう?」 「衝撃者は、他にもいる……?」 「そういう事だ。それが一人か、それとも複数かは知らないが、アヴァターを、メモリーカードを奪い合い戦っているのは確かだろうね。そして心配なのは、その襲撃者……いや、カードを持っている子供たちすべてだ」 「普通のアバターは無害に近い。だが、それはあくまでも普通の弱いアバターの話だ、先ほど例に出したドッペルゲンガーのような強力なアバター、そして或いは……長い年月の間人間に寄生したまま、完全な自我を持つまでに成長したアバターは強い。強さのベクトルはそれぞれだろうがね。そしてそういうモノは、もし暴走すればいともたやすく人を取り殺す。そしてそれは、カードによって進化したアヴァターも例外では無いという事だ。心を侵され、人格が豹変し、そして……乗っ取られる」 そう、新は異能者ではなかった。想像上の友達を固定化させるというものは自分や医者の憶測でしかなかったのだ。 ベルはラルヴァ【アバター】だった。十四年前に新にとり憑き、そして新の想像力を糧に育っていった、精神寄生型ラルヴァだった。 『あのミセリゴルテの光は精神を揺さぶる。あれ自体はそこまで強力ではなかったから、宿主であるお前にまで効果は及ばなかったね。だけど私にははっきりと攻撃は有効だった。そして私は知ったんだ。私が、お前に取り憑き、ずっと少しずつ、お前を糧にして育っていった、ラルヴァだったって』 新の眼前に、ベルが姿を現す。半透明の、幻影の姿。それがいつもよりも余計にかすんで見えた。 「……ベル……お前」 『来るな』 ベルは新を拒絶する。 『私はお前の友達じゃない。兄妹でもない。ただの寄生虫だった。だってそうだ、本当に友達なら、友達を食べたりするか? そんなことはしない。そう、そういうことだ新』 ベルは笑う。消え入りそうな笑顔で。 『私は……ただの化け物だった』 「……」 新は何もいえない。 『さよならだよ、新。もうお前とはこれっきりさ。今まで楽しかったよ。私のことはただの幻想(ゆめ)だったと思って忘れてくれ』 そういい残して、ベルの姿は虚空に溶け込むように消えた。 新は寮に帰りつく。扉を開け、部屋に入る。 静かだ。 部屋は……こんなに広かっただろうか。 敷きっぱなしの布団を見る。布団はふたつ。片方は新の。もう片方は、ベルの布団だ。 『気分の問題だ。私にも布団を用意しろ。実家ではソファだったからな、うん』 電源の入ってないパソコンモニターを見る。アバタールオンラインでは、アカウントをひとつ別に作らされた。 『すごいなこれ、私もモデルに作ってくれ! これなら私も他人と話せるしな!』 台所を見る。茶碗も二人分だ。布団と同じく、使われた事は無い。 『残念だなあ、私は実体が無いので食べられない、気分だけだ……茶碗まで買わせたのに』 存在しないといえば確かにそうだ。ベルは物質に干渉できない、本当に精神だけの存在だった。ただその自我、人格だけが無駄に育ち、自己主張していた。それをただの妄想だと笑うことは本当に簡単だ。取り付いた霊と言っても正しい。 だがそれでも……この部屋にはその痕跡が確かにある。確かに残っていた。 「忘れろ……か」 カードを掴む。 「忘れられる……わけねぇだろうがぁ!」 新は叫び、寮を飛び出した。 トップに戻る 作品保管庫に戻る
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公式や作品の設定固めに繋がるような質問が多いですね -- (名無しさん) 2012-06-12 19 55 22 単純な疑問だけどニーサンとモルテで今異世界は死神が二神いることになっているのかな -- (とっしー) 2012-06-26 23 13 53 ニーサンは引退した際に権能のほとんどを持っていかれてるんだけど、もるもるが本来の仕事サボり放題なので仕方なく零細死神業を続けざるを得なくなってます -- (名無しさん) 2012-06-27 02 27 42 魂の操作・固着といった遊ぶのに都合のいい権能だけ保持して、巡回しなきゃいけないから面倒な転生まわりだけニーサンに押し付けている可能性もあります。あくまで【Black Dog】作者のイメージだけなのでこのへんは他の人も好きにいじっていいのよ -- (名無しさん) 2012-06-27 02 30 22